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P4

昼休みの話し合いでは、やはり不参加だろうという意見がほとんどだった。

当日のアリスの迷宮のスタッフのシフトはカツカツ、発表といっても急すぎる。

じゃ、不参加という事で、とまとまりそうな所で、

神崎が、その時間の枠を預けてくれないか、といいだした。

元々、放棄するつもりの権利、あんまり変な事するなよ、という、

揶揄の声だけで全員が賛同した。

ああ、なるほど、神崎は発表したい事があったのか。

人目を引くようなことをするのは、確かに好きそうだ。

話し合いの後、神崎に呼ばれて、僕と佐倉、高城が教卓のところに集まった。

ここで決まった演目を報告書に書いてくれって事だろう。


「伊月、なにか考えがあるの?」


「ううん、なにも」


佐倉の問いにあっさり答えるので、そこにいた全員が唖然とする。


「だってさ、あのままじゃ、何か悔しいし。もったいないし」


なら、不参加でいいだろう、といおうとすると、


「早瀬君、実行委員で当日する事、なに?」


と聞かれた。当日?


「えっと、十時半まで、会場入り口の総合受付と誘導。

 あとは終わった後の講堂の片付けと掃除」


「なら、早瀬君も参加できるね。湊は?」


はあ?

意外な問いに思わずそのまま答えてしまうと、

あっさりと参加して当然みたいに返された。

高城は弟妹を案内する予定になっているといって、参加は断念した。

朝から感じていた、府に落ちなさ。

神崎って、こんなやつか? 何を焦っている?

目立つチャンスを活用しようとしているだけ?

だったら、もっと早い段階で、それこそ、講堂の発表があると知った時点で、

自分にやらせてくれと言い出すはずだ。


「早瀬君って、なにかそういうところでできる事ある? 特技とか」


ないよ、それで、参加なんてする気もない、と答えるのは簡単だ。

けれど、プライドだけは異様に高そうな彼が、縋るような目をしている。

その奥にあるものに興味をそそられた。


「中学では吹奏楽やってて。

 コントラバス担当だったんだけど、家ではチェロ弾いてる。

 あんまりうまくない、と思うけど」


と、答えると、神崎は、ぱあっと笑顔を浮かべて、

対称的に佐倉は愕然とした表情になった。

伊月、あの、と困ったように声をかける佐倉を無視して神崎は言った。


「僕と修はバイオリンがいける。この編成ならなんとかなるね」


へえ、二人はバイオリンが。じゃなくて、なんとかなるってなんだ。

僕も参加確定なのか。

佐倉は、自分はそんな、みんなの前で発表するようなレベルじゃない、というが、

神崎は、大丈夫、いけるから、と食い下がる。

やっぱり、神崎のなにかがおかしい。なぜそんなに必死になるんだ。

舞台に立つのは慣れているし、別にいい。

他の作業が免除されるのであれば、そこまで抵抗があるわけではない。

なにより、神崎の焦燥の正体を掴みたい。


場の流れで、そのまま曲目を決めた。

誰もがクラッシックに興味があるわけではないであろう舞台では、

CMや映画、ドラマで使われた曲や、

どこかで聞いた事がありそうな有名な曲がいいだろう。

話している間の神崎の視線や言葉遣いに、あれ、と思った。

あれ、もしかして? 自分は大きく見当違いをしていたんじゃないんだろうか。

でも、そうだとしたら、今まで抱いてきた違和感に納得がいく。

いや、やはり、間違いない。

佐倉が、わがまま王子に振り回されて迎合しているんじゃない。

神崎が、佐倉に従属しようとしているんだ。

佐倉は多分、無意識だ。

誰かを従えようとする気さえなさそうなのに、

なぜ神崎は自分から佐倉の機嫌を取るような真似をする?

こんな、ちっぽけで臆病なネズミのような男の下に身を置こうとするんだ?

不思議な倒錯。おもしろい、もうちょっと付き合ってみようか。

曲目も決まって、ありがとう、ごめん、と一応礼を述べた。

僕が早く報告していれば良かった事だし、

少なくとも佐倉は、僕を気遣ってくれている。 

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