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思い出して、少し鼓動を速くしながら病院を背に歩いていると、

ケータイが振動した。有紗からのメールだった。


「殺人的スケジュールで、なかなか連絡できなくてごめん。

 年内はまだしばらく忙しいけれど、近いうちに話せないかな?」


あれ? え、ちょっと待って。

なんでこんな、急に涙が。

自分の頬を伝う物に焦って、木陰に隠れるようにして道路に背を向ける。

病院でのやり取りや、高城の言葉がぐるぐるする。

父さんと母さんの事も。母さんと、家庭教師の事も。

愛は、一方的に与えるものだ。

誰かを特別だと思った時、より多く愛を注ぎたいと思ってしまう。

けれど、多すぎる愛は時に負担になるから、セーブする。

相手がそれに応えて、愛を返してくれたらもっと手渡せるのに。

だから、愛を示して欲しいと願ってしまう。

そういうのを、恋と呼ぶんだろう。

お互いに、相手に負担にならないように愛をセーブし合うなんて、

どこか滑稽でいじらしい。

だから、恋は切なくてもどかしい。

僕は、有紗に恋をしている。

木枯らしの吹く夕暮れの街頭で、突然に気づいて、胸が苦しくてすごく幸せで、

涙が止まらなくなった。


「はあ、びっくりした」


ちょっと落ち着いて、独り言を言って空を見た。

雲ひとつなくて、夕暮れでさらに重く、暗く藍色だった。

一瞬考えて、戸惑って、有紗のケータイをコールした。


「もしもし?」


「久しぶり。メール、ありがと」


「うん、ずっと連絡できなかった」


「こっちこそ、ごめん」


受話器越しの声が近くて、なんだか照れる。

近いうち会いたい、いつなら空いている? というと、ちょっと答えが止まる。


「年内はスケジュールいっぱいで。

 ただ、二四日の夜、急にキャンセルが出たから、

 その日だったら空いているんだけど」


「いいよ、来週だね。その日、ご飯食べようよ」


「え、でも」


「ん……?」


「あ、ううん、浩人の予定がないなら、いいの。

 そうだ、悪いけれど、お店任せていいかな。

 予約取っている時間、なさそうで」


そうか、クリスマスイブだから、きっとどこも混んでいる。

予約しておかないと席がないかもしれないのか。


「わかった、なんでもいい?」


うん、楽しみにしているね、といって、慌しげに通話が切れた。

クリスマスイブに、デートか。小さな奇跡に感謝する。

せっかくだから、雰囲気のいい、ちょっと気合の入ったお店にしたい。

イルミネーションがこんなにきれいで暖かく見えるなんて。

我ながら自分の単純さに呆れてしまう。


(早瀬、お前変わったよな)


高城の言葉が耳の奥に蘇る。うん、本当だ。

書店で買ったタウン誌を抱えて、

ジングルベルを小さく口ずさみながら家へ帰った。

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