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「でも、三人とも変わった。
一見、修が一番変わったように見えるけど、
実は一番変わったのはいっちだな。
あいつは多分、これからもすっげー変わって行くと思う。
もっとシンドイ思いもするだろうけど」
「僕も?」
ぽつりぽつりと言葉を選ぶように言う高城に、そう言葉を挟むと、
だろうな、という。
「俺は、自分から面倒背負い込むようなおせっかいでもなければ、
マメでもない。
けど、ダチは見捨てないつもりだ。
なんかあったらさ、言ってよ。俺でも、あいつらでもいいし。
早瀬が誰かを頼るようになったら、
あいつらもよろこんで力になるだろうし、
何より、楽になるんじゃないかと思う。
もっと、よくなっていくと思う。
むかつくんなら、お前のそういうとこむかつくっていってやればいいし。
まあ、ヒトに頼るのは、俺も苦手だから、偉そうに言えないんだけどさ」
乾いた木枯らしが目に入って、じんと涙が滲んだ。
泣いていると思われたくなくて顔を伏せる。
もし、他のタイミングで他のやつに同じような事をいわれたんだとしたら、
絶対に反感を持ったと思う。
自分はずっとこんなだったし、勝手に決め付けるな、と。
けれど、正直うれしかった。
今まで自分の感覚で、彼らとの関わりを三人とプラス自分一人と思っていた。
高城はちゃんと、みてくれていた。
僕が最近、何かあったと気付いてくれていた。
僕が佐倉の力になりたいと、頼って欲しいと思うのと同じように、
僕に対しても。
また木枯らしが過ぎて、鼻の頭が痛いくらい冷たくなって、
深く吐いた息が、薄く白く染まった。
「ありがと」
小さくそう言って、鼻を啜ると、くすんと音がして恥ずかしかった。
うわ、やばい、と内心焦っていると、
やっぱり変わったわ、と、からかうように笑われた。
病院を出ると、まだ薄明るい時間だった。
佐倉は、ちょっとやつれて疲れた感じはしていたけれど、
思ったよりずっと元気そうだった。
病室でのやり取りを思い出す。
戸川がクラスで、ホモ野郎と呼ばれていた、というと、
佐倉は、なんで? ときょとんとしていた。
「ん、そりゃ、修が戸川に、
お前がそういう願望を持っているから変な想像するんだろ、
とか言い返したからじゃねえ?」
高城の言葉に、慌てて否定する。
「違うよ、あれは、自分より成績いい人の点数が悪かったら、
自分の順位上がるって、湊がそれを望んでいるって、
卑怯者みたいな言い方したから。
そんな事を考えているの、
自分の方だろうって言ったつもりだったんだけれど。
どうしよう、戸川君に悪い事しちゃった」
なるほど、そういう意味での「本当はお前の願望なんだろう」だったのか。
彼はしっかりしているように見えて、時にとんでもない天然で、
それゆえに何か本質を突いたような事をさらりと言い出したりする。
実は、本人は何か深い部分に斬り込んだつもりも、
誤解を招くような言い方をしたつもりも全くないのだけれど。
僕も含めた他の三人で「気にする事ない」と、軽く笑いながらなぐさめたけれど、
「退院して学校で会ったら、謝るよ」
と、落ち込んでうな垂れる。
「あのさ、別に、誰が誰を好きとか、
僕は、偏見を持つ方がおかしい、って思う。
価値観はそれぞれだし、誰かを傷つけていいって訳じゃないけどね。
好きになっちゃったら気持ちなんて、
自分でコントロールできるものじゃないだろ?
そういうの、少なくともうちのクラスのみんなは、
わかっているんじゃないかな。
悪く言われるとしたら、本人の日頃の行いのせい。
だから、修君が悪いわけじゃないよ。
謝りたいんだったら止めないけど」
他人にこんな事を話すのは初めてだ。
性別、年の差、性格や性癖、職業や経歴や住んでいる場所、
学歴や年収、占いの相性の良し悪し。
周りは無責任に反対したりする。
けれど、簡単に手放せる思いばかりなら、なぜみんなこんな苦しみを抱え込む?
同じ人間はいないし、人同士が関われば、そこに芽生える感情は千差万別、
似たものはあっても同じものはない。
僕の心の中にある想いは、僕だけのものだ。
僕の言葉に、三人とも驚いたような視線を向けて、
だけれど、うん、と頷いてくれた。