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P31

授業が終わって、神崎が一足先に病院へ行くとそそくさと帰った後、

高城と二人で佐倉へのお見舞いを買いに行った。

昼休みのうちに、本を買う事に決めていた。

勝手なイメージだけれど、なんとなく高城は話しかけづらい。

病院への道の途中にある書店へ向かって二人で歩いた。


「なんか、悪いな」


高城から声を掛けられて、少し驚いて顔をあげる。


「二人ともバカだから。修はまだしも、特にいっちは」


「なんで湊君が謝るの」


思わず笑いながら疲れたような表情を浮かべる高城に言う。


「や、一応、ダチだし」


「僕だって、二人の友達のつもりなんだけど」


笑って言う僕に、今度は高城が驚いたような視線を向ける番。

そっか、そうだな、すまん、と照れたように言う彼に、首を振って応える。

たったこんなやり取りで気まずさは消えた。


「そういえば、戸川、ホモ野郎とか呼ばれていたよ」


午後、カフェから教室に戻ると、午前中とはまた違った空気になっていた。

昼休み、僕たち三人がいない間に何があったのかはわからないけれど、

彼らの言葉と態度から読み取るに、多分。

女子たちは元々、佐倉をからかう男子の言動に否定的だった。

彼らとしては、戸川の悪ふざけに乗っかった、

ただちょっとした冗談のつもりだったのだろう、

女子に「やめなよ」と、面とむかって注意されても、

体面が気になってあっさり「ごめんなさい」と引く事ができず、

悪ぶった態度をしつづけた。

その後、佐倉は倒れて救急車で運ばれるし、

普段ちゃらちゃらとにこやかな神崎は激昂して高城に掴みかかる、

さらに戸川を怒鳴りつけて殴りかかろうとする。

そんな大騒ぎになってしまって、動揺と罪悪感を募らせていたのだろう。

僕たちが教室を出た事で、それが一気に噴出し、

戸川一人をスケープゴートに、罪を擦り付ける事になったようだ。

といっても、基本的に行儀のいい、優しい性格のやつが多い一組、

それほど陰湿にはならない。

そんな程度を弁えた中では、女子は残酷だ。


「おい、ホモ野郎、俺で変な妄想すんなよ?」


と、軽口を叩くタチの悪い男子の言葉にも、

自業自得とばかりにくすくす笑うだけで庇う気は毛頭ないらしい。

はじめのうち、ふざけんなと睨みつけていた戸川も、

下校の頃にはすっかりしょげて大人しくなってしまった。

僕だって、そんな彼に同情を示すほど優しい人間じゃない。


「ちょっと気の毒だとは思うけどね、正直、ざまあみろ、だ」


そう言って笑いながら肩をすくめると、

しょうがねえなあ、と高城も笑いながら空を見上げた。


「早瀬」


しばらく無言で歩いて、そう声を掛けられた。


「なんつーか、お前、変わったよな」


「え、僕?」


「うん。いっちも、修も変わった。

 いや、俺がそういう面を知らなくて、

 新たに気付いたってだけかもしれないけど。

 前は、お前ら三人とも、人と関わろうとしたがらないっていうか、

 頼ろうとしないし、自分を出そうともしないっていうか。

 つるんでても、一人なんだよ。どっか、一人になろうとするんだよ」


はっと驚いた視線を向けると、

気を悪くさせたら、ごめん、と小さく頭を下げた。

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