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授業が終わって、神崎が一足先に病院へ行くとそそくさと帰った後、
高城と二人で佐倉へのお見舞いを買いに行った。
昼休みのうちに、本を買う事に決めていた。
勝手なイメージだけれど、なんとなく高城は話しかけづらい。
病院への道の途中にある書店へ向かって二人で歩いた。
「なんか、悪いな」
高城から声を掛けられて、少し驚いて顔をあげる。
「二人ともバカだから。修はまだしも、特にいっちは」
「なんで湊君が謝るの」
思わず笑いながら疲れたような表情を浮かべる高城に言う。
「や、一応、ダチだし」
「僕だって、二人の友達のつもりなんだけど」
笑って言う僕に、今度は高城が驚いたような視線を向ける番。
そっか、そうだな、すまん、と照れたように言う彼に、首を振って応える。
たったこんなやり取りで気まずさは消えた。
「そういえば、戸川、ホモ野郎とか呼ばれていたよ」
午後、カフェから教室に戻ると、午前中とはまた違った空気になっていた。
昼休み、僕たち三人がいない間に何があったのかはわからないけれど、
彼らの言葉と態度から読み取るに、多分。
女子たちは元々、佐倉をからかう男子の言動に否定的だった。
彼らとしては、戸川の悪ふざけに乗っかった、
ただちょっとした冗談のつもりだったのだろう、
女子に「やめなよ」と、面とむかって注意されても、
体面が気になってあっさり「ごめんなさい」と引く事ができず、
悪ぶった態度をしつづけた。
その後、佐倉は倒れて救急車で運ばれるし、
普段ちゃらちゃらとにこやかな神崎は激昂して高城に掴みかかる、
さらに戸川を怒鳴りつけて殴りかかろうとする。
そんな大騒ぎになってしまって、動揺と罪悪感を募らせていたのだろう。
僕たちが教室を出た事で、それが一気に噴出し、
戸川一人をスケープゴートに、罪を擦り付ける事になったようだ。
といっても、基本的に行儀のいい、優しい性格のやつが多い一組、
それほど陰湿にはならない。
そんな程度を弁えた中では、女子は残酷だ。
「おい、ホモ野郎、俺で変な妄想すんなよ?」
と、軽口を叩くタチの悪い男子の言葉にも、
自業自得とばかりにくすくす笑うだけで庇う気は毛頭ないらしい。
はじめのうち、ふざけんなと睨みつけていた戸川も、
下校の頃にはすっかりしょげて大人しくなってしまった。
僕だって、そんな彼に同情を示すほど優しい人間じゃない。
「ちょっと気の毒だとは思うけどね、正直、ざまあみろ、だ」
そう言って笑いながら肩をすくめると、
しょうがねえなあ、と高城も笑いながら空を見上げた。
「早瀬」
しばらく無言で歩いて、そう声を掛けられた。
「なんつーか、お前、変わったよな」
「え、僕?」
「うん。いっちも、修も変わった。
いや、俺がそういう面を知らなくて、
新たに気付いたってだけかもしれないけど。
前は、お前ら三人とも、人と関わろうとしたがらないっていうか、
頼ろうとしないし、自分を出そうともしないっていうか。
つるんでても、一人なんだよ。どっか、一人になろうとするんだよ」
はっと驚いた視線を向けると、
気を悪くさせたら、ごめん、と小さく頭を下げた。