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P28

ガタ、と高城が立ち上がって教室後方へ歩き出す。


「何言ってんだよ、お前等、いい加減にしろよ。

 修、相手にする事ないぞ」


高城はクラスで一目置かれている。

ぱっと雰囲気を明るくする、目立つ人気者の神崎や、

誰にでも優しく、好意的に受け容れられがちな佐倉とはまた違う、

堂々と人を従える、尊敬されるような威圧感。

高城に睨まれて、戸川以外の男子が気まずそうに視線をそらす。


「へえ、ホモ仲間の友情ってやつ?

 そんな事言ったって高城、お前、前にいる二人がこけて順位あがって、

 ラッキーだったよな」


「なんで、伊月や湊の事、そんな風にいうんだよ」


「修、よせ」


高城は、押しのけて前に出ようとする佐倉を引き戻そうとする。

なんだ? 佐倉の様子がおかしい気がする。


「何もない」


しんとした教室に、奥歯を噛みしめるような佐倉の声が響く。


「僕と伊月は何もない。そんな想像をする方がおかしい」


高城が佐倉の腕を引こうとして振りほどかれる。

その反動で、佐倉がぐらりとよろけた。心なしか息が荒い。


「伊月も、湊の、事も、根も葉もない事で悪く言うな。

 ど、うせ、本当は」


はあはあと乱れる息の合間に、そういいながら机に寄りかかり、

ゆっくりと床に膝をつく。

その騒動の輪へ近づいた。高城は佐倉を支えるように背中から肩に手を回す。

佐倉は、ふるえる頭を上げ、強い目で戸川を睨みながら、

絞り出すように言葉を続ける。


「自分の、願望、なんだろ」


う、と喉の奥で呻いて、胸を押さえてうずくまる。どうみてもただ事じゃない。


「修!」


焦っておろおろする戸川の背後、廊下側から神崎が駆け寄ってきた。

すぐに高城の横にしゃがんで佐倉を仰向けに抱きかかえ、

制服のネクタイを緩めてシャツのボタンを二つほど外す。

佐倉が泣き出しそうな顔で神崎をみる。


「みー、先生呼んできて。あと、救急車」


高城が神崎の言葉に頷き、立ち上がろうとしてはっと動きを止める。

高城の腕を佐倉が強く握っていた。


「びょういんは」


「そんな事言っている場合じゃないだろ。みー、いいから」


喘ぐように訴える佐倉の声を、神崎が遮る。

神崎に視線を送って頷き、教室前方の入り口に静かに走り寄ると、

職員室に直通のインターフォンの受話器を上げた。

ツーツーという呼び出し音の後、


「はい、職員室。一の一だね、どうした?」


と声が聞こえた。


「担任の椎野先生か、学年主任の先生に、教室に来るよう伝えてください」


僕の声の慌てた調子に、

ちょっと待って、椎野先生、と呼びかける声が聞こえる。


「椎野だが、どうした」


「早瀬です。教室に来てください。

 佐倉が倒れて。神崎が、救急車を呼んでくれって」


すぐ行く、と通話が切れた。

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