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P25

父親はリビング中を拭いていた。ふと気づいて声を掛ける。


「父さん、朝ご飯まだだよね。何か用意しようか」


といっても、何があるだろう。ホットケーキミックスくらいならあるかも。

でも、父さんが朝からホットケーキか。

ハラ、空いているのか? と逆に聞かれて首を横に振る。

体が軽く、活動的になっていて、

食べれば入るんだろうけれど、おなかが空いている感じではなかった。


「コーヒーを淹れるよ。少し休憩しよう。

 浩人はそっちに座っていてくれ」


言われるままにダイニングへ移った。

さっき干したカーテンにそっと触れると、もうすっかり乾いている。

バシャバシャと手を洗う音に背中を向けたまま庭を見た。

芝生は枯れて白っぽくなり、木々もぼさぼさバラバラと、みすぼらしく見えた。

春になれば元に戻るんだろうか。

いや、やっぱりちゃんと手入れしないとだめなんだろう。

草木も生きている、と、ふと過った。

生きているものはみんな、ちゃんと見ていないといけない。

みていて、手をかけていないと弱ってダメになって、

取り返しがつかなくなってしまうんだ。

きっと、自分自身さえも。

振り向くと、キッチンでコーヒーメーカーのポットを片手に、

おろおろと行き来する父親が見えた。

何をしているんだろう。ダイニングからキッチンへと戻った。


「ああ、いや、あの、コーヒー豆とフィルターはどこだったかな」


なんだかおかしくなって、笑いをこらえながら、

僕が淹れるよといってポットを受け取った。

コポコポ、シュウシュウという音を立てながらコーヒーが落ちて、

香りが広がっていく。


「昨日の会議でやっと仕事がひと段落したよ」


ダイニングテーブルについた父親が、独り言のようにそういった。


「これからは、ちゃんと家で寝られそうだ」


「そう」


サイドボードから大きめのカップを二つ出してテーブルに置いた。


「お前もまだ高校生なんだし、ちゃんと家に帰りなさい」


「帰っているよ」


静かに諭すような声に、ゆっくり長く息を吐いて、

この前ここでもめてから、二回外泊したけれど、

それ以外はちゃんと帰っている、と続けた。

コーヒーが落ち切ったのを確認して、ポットをダイニングに運び、

カップに注いだ。

父さんは僕の手元をじっとみていた。


「母さんは、先週だったかな、

 あの男と暮らすから、近いうちに出ていくといっていたんだが、

 その話は聞いたか?」


バカだなあと思った。

カップに視線を落としたまま、ううん、母さんとは最近会ってないよと言った。

ここにいれば何もかもが安定していて、幸せだって買えるだろうに。

そんなにあんな男がいいのかな。なんてバカなんだろう。

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