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P23

「私には、言えない?」


言えないんじゃない、言わないんだよ。


「彼女には、話すんだよね」


「彼女?」


自嘲気味に微笑みながら視線をそらす有紗に、問いかけるような視線を送る。

誰の事を言っているんだろうと数秒考えてから思いつく。

そうか、台風の日に振られた、ケータイの。

あれから色々あったし、マジですっかり忘れていた。


「そんなに、信用ないかな」


きらりと涙が光りながら落ちていく。流れ星みたいだと思った。

有紗の負担になるくらいなら、こうして泣かせてしまうくらいなら、

もう会わない方がいいのかもしれない。

寒いなあ。

これから有紗と会えなくなったら、

また一人で暖かい居場所を求めて彷徨わないといけない。

背中も腕も、痛いくらい冷たい。


「何とか言ってよ」


「有紗、寒くない?」


僕の言葉に、ぽかんとした表情をする。

僕はどうだっていいけれど、有紗が冷えて寒かったら可哀そうだ。


「せめて、暖かいところで話さない?」


「ふざけているの?」


「ふざけてなんて」


怒りを含んだような声に、思わず目をそらす。


「そうだよね、どうせ、私なんて」


なんで、そんな事。


「一緒にご飯を食べたり、話したりしていて、

 すごく近い人だって、勝手に思っていた。

 けど、浩人はそうじゃなかったんだよね」


なんで、僕はただ。


「ごめん、でも、少しくらい頼って欲しかったよ」


何かあったら、父さんを頼ってはくれないか? という、

父親の声が耳の奥をよぎった。


(お前を救いたい。力になりたいんだよ)


佐倉が高城に、なにもないよ、と素っ気なくつぶやく声。


(なんか思うとこあるなら、言えよ。せめて、俺らには)


僕も高城の言葉に頷いたけれど、

何も言って来ない佐倉に、信頼されていないような苛立ちを覚えている。

誰からも頼りにされていないのは僕の方だ。

誰からも、信用されていないのは。必要とされていないのは。

居場所すら不確かなのは。

有紗の頬を、また涙が伝う。

みんな自分の居場所で輝く。

僕はふらふらと彷徨い、誰かの人生に一瞬過り、消え去るだけの流星だ。


「なんなんだよ」


頼って欲しかった、なんて、過去形。もう、終わったって事、みたいに。

有紗まで、そんな事をいう。


「頼って欲しいなんて。近く思っていた、なんて」


頼りたかったんじゃない。うだうだと相談なんてすれば、満足なのか?

そんな事、したかったわけじゃない。ただ、そばにいられるだけで。

誰も、わかってくれない。結局、また一人に戻る。

一気にあふれる感情が抑えられない。

母親ですら、もうとっくに僕の事なんて、

寂しさの言い訳にする嘘の材料くらいにしか思っていない。


「本当に欲しいものなんて、一回もくれたことないくせに。

 僕の事を、金で買っているだけのくせに」


顔を覆って、嗚咽を堪えて泣いた。人前で泣くのは、記憶の中では初めてだ。

小学生の頃でさえ。

冷たい夜気が肺に刺さる。

ひろと、と、なだめるようにつぶやく有紗の伸ばした手から逃げるように、

踵を返して駆け出した。

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