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P2

夏休みが明けて教室が変わった。

神崎は早速、自分の友人だと二人を紹介した。

高城湊。クラスマッチのバレーで目立っていたから、何となく覚えている。

真っ当な正義漢で、常識人って感じ。

多分、目の前にいるこの三人の中では一番頭がいい。

学校の成績がって意味じゃなく、人の本性を見抜く力、とか、

とっさの状況判断能力とか、そういう意味で。

当然のごとく、向こうも同じ意見だろうけれど、合わないタイプ、苦手だ。

もう一人が、佐倉修輔。

成績は、ダントツの学年一位。ネズミに似ている、と思った。

小さく華奢で、自信なさげにおどおどしている。

顔を隠すように重く長く髪を下ろし、

黒縁のメガネの奥の目はこちらをちらちらと窺っている。


「修が委員長で、僕が副ね。ほら、修もちゃんと挨拶しなよー」


神崎に促がされて、う、うん、と口ごもった後、

一組へようこそ、これからよろしくね、と、ぼそぼそと声をかけた。

なるほど、気まぐれな猫の、恰好のおもちゃってわけか。

本格的に傷つかない程度になぶられて、

逃げる事もせず、薄笑いを浮かべて迎合する。

憐れだけれど同情する気さえ起きない、惨めな生き物だ。


一・二組は、授業内容も担当教師もほぼ一緒のはずだから、

たいして違いはないだろうと思っていたけれど、授業を受けて驚いた。

集中と意欲がまるで違う。

前二列の集中力、特に佐倉、神崎の態度には最初の頃鳥肌が立つ思いだった。

先生が解説する。一呼吸分考えて自分の頭の中でまとめようとする。

と、前列で手があがって、神崎が確認するように質問をする。

先生がそれに回答すると、

佐倉が手をあげて、さらに一歩踏み込んだ質問を投げかける。

ついていけない中列以降が詳しい解説を求めて手をあげる。

二組にも、たまに手をあげる生徒はいたけれど、

真面目ぶった面倒なヤツという冷めた目で見られていた。

この雰囲気を作っているのは、間違いない、佐倉と神崎だ。

真剣勝負のような授業を終えて昼休みになると、

神崎がへらへら笑いながらお昼一緒に食べようよ、と誘ってきて、

その背後で、佐倉がおどおどと頷く。

君ら、授業中の殺気を感じさせるほどのオーラはどうした。

断る理由もなければ高城も含めた四人で一緒に昼食をとったし、

気が乗らなければ、一人で食べるよといって教室の外へ出た。

特に詮索をする連中じゃない点では、気楽だ。


「今日のお昼は何?」


「カフェのチキンサンドとアイスコーヒー」


「いいな、蓬泉のカフェ、おいしそう」


僕には、一人になる時間が必要だ。

ケータイと会話をしながら、頭を空っぽにして食事をするのは、嫌いじゃない。


二学期といえば、とりあえず一番面倒なのは文化祭だ。

一緒に二組から移ってきた女子は、苗字は知っているけれど話した事はない。

彼女は気の合う女子と、昔からの友達のように振舞っている。

女ってなんですぐあんなに打ち解けることができるんだろう。

僕は自分から進んで交流する気もないから、仕方ないのだけれども。

僕の文化祭での担当は、実行委員。

講堂でのクラス代表の演目を報告、管理するんだけれど、

全クラス参加するわけじゃないし、

特に一年生は毎年、参加クラスはほとんどないそうだ。

じゃあ、実質やることといったら、当日の会場整理や片付けぐらいか。

クラスでは気合を入れて教室での発表の準備が進んでいる。

これも、このクラス特有の事だろう。

他のクラスでは、真面目に取り組むのなんてバカらしい、

恰好悪いという空気があって、だらだらと準備をしているはずだ。

佐倉、高城はまだしも、神崎なんて、真っ先にさぼりそうなタイプなのに、

よく動いているな、と意外なくらいだ。

まあ、僕は捲き込まれないように気配を消してやり過ごそう。

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