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P14

ノートの上を走らせていたシャープペンシルの動きをふと止める。

今日は「家庭教師の来る曜日」だったし、やつは予定通り家の中にいるけれど、

僕の部屋には来ない。

胸に湧いてくるむかむかとした不快感を長い息と共に吐き出す。

神崎は今、何を思っているんだろう。

人を本気で好きになるって、どんな感じなんだろう。

その思いが、受け入れられないと知った時は。

そんな辛い感情、無駄だと思っていた。

何者にも依存せず、自分は一人だと決めてしまえば、

そんな思いに囚われず、感情に振り回されずに自由に楽でいられる。

階下から、ハハハという、癇に障る笑い声が聞こえて思わず目を閉じる。

恋愛に本気になって道を踏み外すなんて馬鹿馬鹿しい。

自分はそんな、下劣で愚かな人間じゃない。

そんなくだらない事に惑わされない。

けれど、どうしても、胸がざわざわとした。


羨ましい。


身を引き裂かれるような思いに傷ついたとしても。

かけがえのない何かを見つけてしまった彼が。

神崎、君が羨ましいよ。

ケータイに呼びかけられて、びくっと画面を見る。


「今日はメールくれないんだね?」


表示されたメッセージに疲労を覚えてぐったりと椅子の背もたれに寄りかかる。

有紗に会いたい。


翌日学校に行くと、佐倉と神崎は仲直りしたらしく、穏やかそうに話していた。

週末、用事のある高城抜きで遊ぶんだけれど、と誘ってくれたけれど、

僕も用事があるから、と断った。

邪魔をするほど無粋じゃない。

佐倉の彼女にも紹介する、と二人で話しているのを聞いて、

やっぱり行けばよかったかなと少し後悔はしたけれど。

何事もなく週末になった。

土曜日、半日の授業を終えて下校していく生徒の流れに乗って歩く。

ケータイを取り出して、メールを読み返す。

今日は、有紗に会える。今夜は何を食べに行こうか。


有紗と寿司を食べてから、いつものように彼女の部屋へ行き、

いつものように過ごし、暗い部屋のベッドに横になって気だるげに話していると、

ケータイにメールの着信があった。

有紗が少し緊張したように口を噤む。

開いてみると神崎からだった。

急に修の家に泊まることになって、今、修の部屋にいる、という内容で、

修の彼女の唯ちゃん→と示された画像を開いて、

表れた犬の写真に、数秒、どういう事? 間違った画像を添付した? と考えて、

その意味を理解して思わず大笑いしてしまった。

なあに? と困ったように尋ねる有紗にその画像を見せた。


「この前、委員長に恋人がいて、

 副委員長が不機嫌になったって話、したでしょ?

 このメール、その副委員長からなんだけれど。これが委員長の恋人だって」


「え、犬じゃない」


「うん。いいネタもらっちゃった。週明けが楽しみだよ」


ずっと笑っていると、ひどいんだ、といって、有紗も笑った。

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