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P12

「用事があるのは午前中だけなんだけれど、できれば午後も一緒にいたから」


一緒にいたい? 誰か親しい人と会う予定なんだろうか。

基本的に一人が好きそうな、というか、僕の勝手な思い込みだけれど、

休日を約束する友人のいなそうな佐倉の言葉に軽く興味をそそられた。

神崎も同じだったのだろう。


「お、修、もしかして彼女とデート?」


「ま、そんなとこ。最近忙しくてあんまり遊べなかったし。

 そろそろ機嫌とっておかないと」


からかうように付け加えた神崎の言葉に、少し照れたようにそう返す。

今まで佐倉に恋人がいるなんて話題は出た事がない。

彼女はさすがにないだろうと思っていた。

多分、僕だけじゃなく、そこにいた全員が。


「いや、そういえばそういう話、した事なかったけど」


「ね、どんな子? 名前、なんていうの?」


高城の唖然として発せられた言葉を、神崎が身を乗り出して遮る。

口元は笑いの形になっているけれど、秘かに頬が引きつっている。

ちょうどその時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

佐倉は事も無げに立ち上がって自分の机を元の位置に戻しながら、


「名前はゆい。唯一の唯、漢字一文字で、ゆいだよ。

 あ、土日は特に予定ないから。

 打ち上げ、みんながその日に予定なかったらどうかな」


といって、片付けを再開しはじめた。




サラダをフォークで刺して口へ運ぶ。

ちょっと酸っぱいけれど、ドレッシングがおいしい。

ルッコラもオリーブもあんまり好きじゃなかったけれど、

今日はなんとなく瑞々しくて香りを好ましく感じる。


「文化祭、どうだった?」


向かいの席で同じく口を動かしながら、有紗が聞いてきた。

いきなりチェロを演奏することになって、練習しないといけない、

という事は話してあった。

あれからお互いばたばたしていて、今日は久しぶりに会えた。


「文化祭は、うまくいったよ」


「は、って事は、他になにかあった?」


その問いには、僕自身考え込んでしまう。

打ち上げをしようといった日の帰りに、話の続きをしようとしたのだけれど、

神崎はいつの間にか帰ってしまっていた。

それ以来、打ち上げの話題になると途端に不機嫌になる。

触らぬ神にタタリなし。

話題を避けているうちに、今はもう木曜日の夜だ。

うーん、なにかというか、と前置きしてざっと説明をした。

地味で勉強だけが取柄って感じの委員長と、

人気者タイプのハキハキと目立つ副委員長の事。

その副委員長が打ち上げをしようと言い出したんだけれど、

なんとなく気まずい雰囲気になっている事。


「うーんと、誰も、その副委員長の意見に賛成しなかったの?」


「そんな事はないよ。

 みんないいねって乗り気で、週末のいつにしようか、って話になって」


「それなのに、急に?」


そういえば、いつから不機嫌だった?

打ち上げの話をしたのは、確か昼休みの終わり間際だった。


「ああ、そうだ、委員長が金曜日は恋人と会うから、土日なら、って。

 そういえば、周りのやつらみんな、

 委員長に恋人がいるなんて初めて知った、って。

 それで昼休みが終わって」


話しながら、パズルのピースが組み合わさっていく。

少しずつはっきりと、そこにある事実が浮かび上がってくる。

あれ、それってもしかして。


「それで急に不機嫌になったなら、

 その副委員長、委員長の事がこっそり好きで、

 恋人っていう子にヤキモチやいちゃったって話じゃない?」


そう。全く、その通りだ。それならば今まで抱いてきた違和感が繋がる。

いや、でもまさか。うわ、完全に盲点だった。


「好き、なのかな」


驚いたように思わず口にすると、知らないわよ、と笑う。

湯気を立てたパスタが運ばれてきて、その話題は終わった。

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