―承―
「もうっ! 勇者様がこんな変態さんだとは思っていませんでした!」
勇者(♀)はロープでグルグル巻きにした勇者(♂)を引きずりながらプンプン怒っていました。
ずるずる引きずられている勇者(♂)はどこかまだ未練があるかのようにさっきの話の続きをします。
「ぎ、逆に君は彼氏欲しいとか思わないの?」
「そんなのは魔王を倒してから考えますぅ!」
「別に遠慮なんかいらないぞ? オレは君のように寝ている間バリアーなんて貼らないから。いつでも夜這いウェルカムだ。君だって男のナニを一度はくわえたいって思わ――げぶゥ!!」
調子乗ってたら勇者(♀)の蹴りが飛んできました。おでこがヒリヒリと痛かったですが、それでも勇者(♂)は幸せでした。苦節一年。ようやく勇者(♀)のパンチラが拝めたのです。祝・初パンチラ!
「は、はにゃしを変えるけど……オレ不思議に思ってたことがあるんだよね」
「何ですか?」
「なんで魔王って何回も復活するのかな? 確か君のご両親が魔王を倒したのって18年前の話だけど、その10年後くらいにまた復活したよね。それにそれ一回に限らず、オレのじいちゃんが魔王を倒した時もその数年後に魔王復活したしそれ以外にも何回も…………歴史上勇者が魔王を倒すとその後必ず魔王が復活している。なんかあるよねコレ」
「確かにそれも不思議ですけど、私は今のパーティ編成に疑問を感じます」
「ああ、そういえば何十年か前に王様がそういうルールを作ったんだよね。『魔王を倒すパーティは男女二人のペアのみ』。変なルールだなって思ってたけど、君のご両親がそのパーティで魔王倒しちゃったし、その後夫婦になってたから良いことなんだなってしか考えてなかったけど」
「それでも現実的ではありません。魔王は復活するたびに強くなってきてます。なのにこっちは戦力を削ってるなんておかしいです。もっと100対1くらい徹底的にやった方がもしかしたら魔王も復活する事なんてなくなるかもしれないのに……」
女って時々怖いこと考えるよなぁ、と勇者(♂)は思うも口に出すことは止めときました。どうせパンチラを見るのなら恥じらいがセットになってた方がいいと、どうでもいいことを考えてました。
「モテたいなぁー……」
勇者(♂)はどこまでも続く青空を眺めながらボヤきました。
「まだ言いますか…………魔王を倒したら王都の女の子からモテモテになりますよ」
「その中に君はいないの?」
「いません」
「ヒっど――――い……」
「勇者様そろそろご自分の足で歩いてください。私かなり疲れてきました。て言うか、もうここに置き去りにして私一人だけで次の町に向かいますよ?」
「もっとヒっど――――い……ん? おいちょっと待て。空から何か降ってくるぞ!」
「え?」
と言ったその瞬間。勇者ご一行の目の前に何かが墜落してきました。
砂埃が舞って一メートル先すらも見えません。目に砂が入らないよう腕で顔をガードしながら、片方の手でそれぞれ武器を取り出しました。モンスターかもしれません。
「魔物か!? それとも何かの魔法か!?」
「勇者様! 前! 人影が見えます!! 攻撃しないでください。村人かもしれません」
「村人が空から降ってくるのかよ!? 普通に考えておかしいだろ! 襲撃を受けてるんだよオレ達は!」
だんだんと砂埃が風によって流され、視界が晴れてきました。勇者(♀)の言った通り目の前には人影が一つあります。
その人影が話しかけてきました。
「ウフフフ。確かに妾は村人ではなくそちの敵である」
「誰だお前は!!」
この世界はゲームではありません。なので必ず通過しなくてはならない村や町、クリアしなければならないイベントやアイテム、と言ったものは存在しません。
だからこういったイレギュラーな展開は、現実の世界ではありふれた普通となってしまいます。
わかりやすく言うと、町を3つ、城を1つ、イベントを10個ほどすっ飛ばして最終局面にきてしまいました。
目の前の女の人は素直に自分の正体を告げます。
「妾はそのたらの言う〝魔王〟ぞ」