―起―
「もういい、諦めようぜ」
世界を救うための旅をしている途中の勇者(♂)は急にそんなことを呟きました。
どこまでも続く緑の平原に座り込み、そのままグダー……と仰向けに倒れてしまいました。
「ちょっと勇者様っ! どうしたんですか急にっ」
旅のお供らしい巨乳な女の子があわてて寝転んだ勇者のところに駆け寄ります。
「もうメンドくさくなってきた。魔物に襲われている町を救うとか、呪われて石にされた町の住人の呪いを解いてやるとか、あと魔王を倒すとか色々」
「ダメですようそんなこと言っちゃあ。お話がここで終わってしまいますっ! 伝説が始まりません! 町を救い、悪の魔王を倒すのは勇者の勤めですっ!!」
「勇者なら君がいるじゃん。由緒正しき伝説の勇者の子孫である君が魔王を倒せばいいんだよ」
「勇者様も伝説の勇者の血を引き継いでいるじゃないですか。私と二人で悪の魔王を倒しましょうよ! 魔王の城まであとちょっとですっ!」
「って言ってもなぁ~。やる気が起きないんだよ。やる気が」
退屈そうな欠伸をする勇者(♂)。なんだかとても無気力な顔をしています。
そんな彼と一緒に長い旅をお供してきた勇者(♀)は、ちょっと困ったような表情をしています。とりあえず彼のやる気を取り戻さないと、このままこの平原で野宿になってしまうので何とか元気を取り戻そうとします。
「勇者様。なんかお悩みでもあるんですか?」
勇者(♂)の隣にちょこんと座りながら勇者(♀)は話しかけました。
「……」
「気遣いなく何でも話してください。私と勇者様はパートナーなんですから」
「…………たいんだ」
「ん? なんですか?」
「モテたいんだ」
「え?」
すると寝転がっていた勇者(♂)は急にガバァ! と起き上がり叫びました。
「モテたいんだよ女の子に!! オレだって年頃の男だぞ!! 彼女の一人や二人くらい欲しいよ。昼はデートしてイチャつきたいし、夜は可愛い彼女にあーんなことやこーんなことをしたいわ!! ……っていうか、今も王都で呑気に暮らしている友達はぜってーヤってる! 昼間っからもヤってる! そしてオレもヤりたい!!」
「………………ゆ、勇者様……その、ちょっと……幻滅ですぅ…………」
勇者(♀)は少し物理的な距離を取り、心の距離を目一杯開きました。つまり勇者(♂)の下心満載な発言にかなり引いています。
しかし勇者(♂)のそんな怒り(下心)はどうやら勇者(♀)にも向いていたようです。
「それに君も君だっ!!」
「へ?」
「オレ達は王都を出発してかれこれ一年近く経つと言うのに何故一向にくっつかない!? 夜な夜な町の宿屋でエッチはおろか、君の裸すら見たことがない! 入浴中を覗こうにもバリアーで防御。君が寝ているベッドに侵入しようと思ってもバリアーで防御! 戦闘中攻撃を受けた拍子に君に抱きおっぱいを揉もうとしたけどバリアーで防御!! そんなにオレを生き地獄にするのが楽しいのか!?」
「そ、そんなっ……!? ま、魔王を倒すことと全然関係ないじゃないですかっ! 私達は世界を救う勇者ですよ」
「いいや関係なくないぞ。しかもそれを証明しているのが君のご両親だ」
「?」
勇者(♀)は勇者(♂)が何を言っているのか分かりませんでした。しかしそんな彼女を他所に彼は熱弁を振るいます。
「君の両親は二人共伝説の勇者で、当時オレ達と同じように二人パーティだった。彼らはその時世界を苦しめていた悪の魔王を倒し、王都に帰還した彼らを讃える祭りとして凱旋パレードが催された。そしてその数日後に君は生まれた。……魔王の城から王都に帰るのだって半月もかからない。実際その記録だってあるし、オレの親父やお袋の話を照らし合わせても、君のご両親が帰還に時間がかかったなんて事実はない。……オレが何を言いたいか分かるか?」
「いえ……結構です。それより旅の続きをしましょう勇者様」
しかし勇者(♂)はここがメインだと言わんばかりに立ち上がり、魂の叫びを上げました。
「つまり君のご両親は魔王を倒す旅の途中でS○Xしてたってことだぁああああああああああああああああああああ!!」
「もう勇者様サイテ――――ですっ!!」
平手打ちでなく、ザコ敵なら瞬殺できるような強力魔法を勇者(♂)に向けて放つ勇者(♀)。ドッカーンと派手な音を立てつつ爆発した勇者(♂)のHPはあっという間に『1』になってしまいました。