悪魔
朽ち果てた教会に、
月の光が射し入っている。
聖域――
ブラック神父は礼拝堂に足を踏み入れた。
カツカツと自らの足音だけが、静謐な空間にこだまする。
「…」
神父は十字架を見上げて目を細めた。
十字架の上空に黒い靄がかかっているのだ。
静けさを破って、けたたましい笑い声が鳴り響いた。
「よう、ブラック神父。久しぶりだな」
「…デーモンよ」
神父は悲痛な顔を悪魔に向けて小さく呟く。
「デーモンよ、何故、お前は」
「おっと、何を言っても無駄だぜ。俺は悪魔だ。憎悪と虚無と破壊の申し子」
黒い靄が人の形に変わって悪魔ルシフェルが姿を現す。
「私はお前を、救えない」
神父の声は苦渋に満ちていた。
「ははっ、救ってくれなくても結構さ」
悪魔はクククッと笑った。
神父は主よ、と囁くと悪魔に向かって揺るぎない視線を送った。
ふたつの黒い影は、蒼い月明かりの下で睨みあう。
硬質な時が過ぎていく。
決して相容れることの無い、二極の象徴。
朽ち果てた聖堂は、
静寂のみが支配している――