一目惚れ2
ジョンは自分の部屋で、どきどきしていた。
キャサリンからの手紙が届き、待ちこがれていた人の返事が気になっていた。
ーそろそろ邸に来ませんかって、誘ったからな。
ふふと1人で笑う。
ペーパーナイフで封を切るのだが、下手に開けないように慎重になる。
ーもう何回も手紙のやり取りをしたし。大丈夫だと思うんだけど。
キャサリンは字も綺麗で、読みやすかった。
お互いについて、例えば誕生日とか、好きな本や食べ物など、交換したのだった。
ーいい返事が書かれているといいのだけれど。
ジョンは緊張しながら、封を開ける。
手紙を開くと、いつもの優しいキャサリンの字が見えてくる。
「えっと…何々?」
恋する乙女のように、胸をときめかせながら、読んでいくと、ジョンは「わお」と声を上げる。
どうやら邸に来るのをOKしてくれたようだった。
「やった、やった、やったあー!!」
椅子から立ち上がって、ジャンプする。
手紙は大事なものとして、胸に抱き、キャサリンの代わりとする。
ー今から準備しなくては。
キャサリンが来るのは、1週間後だった。
まだ時間があるような、ないような期間に、ジョンはもどかしさを感じる。
ー彼女の好きなもので歓迎しよう。
そう思うと、ジョンは手紙を丁寧に封筒に戻し、執事を呼ぶ。
「1週間後、大切な人が来るから、用意しろ」
当主として命じると、執事は丁寧に礼をしたのだった。
ーそして1週間後。
ジョンは朝から緊張していた。
キャサリンが早く来ないか、うろうろしているのである。
もちろん正装しており、自分で思うのもなんだが、良い男だった。
ーキャサリンと会って3か月。やっと、やっと、この日がきた!!
季節は冬から春になり、優しい日差しが部屋に入ってくる。
鳥達も祝うように活発に動き、ジョンは窓を開く。
すっとした空気の中に、ふわりした暖かさを感じ、花の香りがするような気がする。
庭師に頼んで、庭園にも花が咲き誇っているし、キャサリンが楽しめるように工夫がしてあった。
「ーあ!! 馬車」
ついにキャサリンが来たと思い、ジョンは部屋を出る。
急いで玄関ホールに向かうと、使用人達が並んでお辞儀してくる。
当たり前の行為なのだが、ジョンはいつも違和感を持つ。
人に頭を下げられるほど、自分は賢いのだろうか、自分はしっかりしているのだろうかと思ってしまうのだ。
ー他人の評価を、つい気にしてしまう。自分の邸なんだから、堂々とすればいいのに。
こほんと空咳すると、服を整える。
キャサリンが馬車から降りたのか、扉が開かれる。
「ージョン様!!」
姿を見せてきたキャサリンは素晴らしく、春らしいピンクのドレスだった。
ジョンはここでも「わお」と声を出し、彼女を凝視する。
柔らかそうな髪に、少し染まった赤い頬。
それに、しずしずと入ってくる態度。
どれをとっても、ジョンの好みだった。
ー抱きしめたくなる。
ジョンはここはぐっと我慢して、キャサリンを迎え入れる。
「いらっしゃい、キャサリン。ようこそグランド家へ」
声はしっかりしたもので、ジョンはほっとする。
緊張しているので、声が震えたらどうしようと思ったのだ。
キャサリンは気づかなかったのか、ドレスの裾を持ち、礼をしてくる。
「ー本日はお招きあずかって、嬉しいですわ。よろしくお願いいたします」
キャサリンの美声に負けたのか、鳥達が静かになる。
使用人達も安心したのか、和やかな雰囲気になっていくのが分かる。
ーそうか。私が緊張すると、使用人達も緊張するのか。気をつけなければ。
ジョンは顔を引き締めると、腕を差し出す。
「部屋を用意してあるから。行こう」
そう声をかけると、キャサリンはにこりと笑い、腕をからめてくる。
細くて柔らかな肌を感じ、ジョンは抱きしめたいのを我慢する。
頼るように力をかけられ、ここは男としてエスコートしないとと、歩き出す。
「ー応接室へ行こう。キャサリンが楽しみものがあるから」
「私の楽しみなもの? 何かしら?」
「さあ。見てのお楽しみ」
ふふと笑うと、応接室へゆっくり歩いていく。
まるでバージンロードを歩いているようで、ジョンの身体が熱くなっていく。
キャサリンも緊張しているのか、表情が硬かった。
ほぐすためには、応接室へ急がなければと進んでいく。
「ーほら、ここが応接室だよ」
扉を開くと、キャサリンが眩しそうに目を細め、ゆっくりと室内を目にする。
「ま、まあ…!! 絵画が…!!」
「そう。キャサリンが好きそうな絵画を飾ったんだ」
ジョンは得意気に言う。
応接室は邸の中で、貴重な絵を飾るために作られたものだった。
「まあ、まあ、まあ!! 素晴らしいですわ」
ジョンが惜しむように腕を放すと、キャサリンが絵画に見惚れる。
景色を描いたものを始めとして、領主と領民を描いた勇ましいもの、両親と子どもが映った絵など、色んなものを用意させたのだった。
「どうかな? どれが気に入った?」
「私は…そうですわね。ーこの1枚でしょうか」
それは馬に乗った人物と青空、橋が描かれており、ジョンも気に入っている1枚だった。
遠出をしたくなるような1枚であり、今日の天気と同じく、綺麗な空と雲のバランスに、キャサリンは釘付となったようだった。
「私も馬に乗ってみたいですわ」
「じゃあ、男装しないと駄目だね」
2人は笑い合うと、ジョンが椅子を勧める。
「どうぞ、お嬢さん」
「まあ。失礼いたしますわ」
キャサリンは椅子に座ると、興奮したように、顔を赤く染めている。
ジョンはやったと心の中で喜び、自分も椅子に座りつつ、執事に言う。
「例のものを」
「はい。畏まりました」
執事が去っていき、2人きりとなる。
2人とももじもじしていては話にならないので、ジョンから口を開く。
「キャサリン、今日の君は素敵だよ。春の花のように美しく、まるで妖精みたいに輝いて見える」
「まあ!! 言い過ぎですわ」
キャサリンは口に手を持っていき、声を上げて笑う。
それからジョンを見て、言ってくる。
「ジョン様も素敵ですわ。この前、会った時よりも、とても男らしく見受けられます。春の日差しも協力してくれているようで、私には眩いですわ」
「そうかい? それは良かった」
キャサリンに褒められ、ジョンは上機嫌となる。
それから手紙の話をする。
「君からの手紙が待ち遠しくてね。ずっと、ずっと待っていたんだよ」
「私も楽しみにしておりましたの。早く来ないかなと、そわそわしていましたのよ」
「そうなのかい? それは良かった。ーそれで」
ジョンは息を吸うと、真剣な表情で口にする。
「私のことを好きになってくれないかな?」
「それは…その、もちろん好きですわ」
「駄目。好きと愛しているのとは、違うから。私は愛しているのほうなんだけれど?」
「ジョン様…。もう困らせないでくださいませ」
キャサリンは心が綺麗らしく、顔が真っ赤になる。
手応えを感じ、ジョンは心の中で喜ぶ。
「ーキャサリンのことを愛している。ぜひ婚約者になってくれないか?」
「ジョン様…。…そ、その、私は…」
キャサリンは言葉を選びつつ、続ける。
「…私でよろしいのでしょうか? その、ジョン様との手紙のやり取りでお互いのことを知りましたが…。私、女らしく見えますでしょうか?」
「当然さ。キャサリンは女性らしい。他の女性達も、嫉妬するくらい素敵さ」
「そんな…。恥ずかしいですわ」
手で顔を覆うキャサリンを可愛いと思いつつ、ジョンは期待する。
「ー返事は? どう?」
「…そうですわね。その、あの」
「その、あの?」
身を乗りだすと、キャサリンは横を向いて答える。
「私で良ければ、喜んで」
小声だったのに、はっきりと聞こえ、ジョンは嬉しさのあまり、キャサリンを抱きしめる。
「きゃ!! あ、あのジョン様…!!」
「嬉しい…!! 嬉しいよ、キャサリン!! やった!! やったぞ!!」
細い首を抱き寄せ、髪にキスをする。
キャサリンは恥ずかしさからか、逃げようとしたが、ジョンは許さず、こめかみに口づける。
「私の可愛いキャサリン。よろしく」
「よろしくお願いいたしますわ」
キャサリンも腹を決めたのか、ジョンに手を伸ばしてくる。
2人は祝福する光に支えられ、しばらく抱き合う。
ーキャサリンから良い香りがする。
自分のものとなったことに、ジョンは喜びを隠せず、キャサリンの顔を間近で見ると、瞼にキスをする。
「じ、ジョン様…!! キスのしすぎですわ」
「いいの。私のものなんだから」
ふふと笑い、ジョンはキャサリンの髪を構う。
ずっと触れたかったものなので、味わうようにゆっくりとすいていく。
キャサリンは気持ちがいいのか、ほうと息を吐く。
ジョンはくすりと笑うと、キャサリンに触れていく。
肩や腕、顔といったように、手を動かしていく。
キャサリンは嫌がらず、むしろジョンを受け入れるかのように静かになり、うっとりとした表情となる。
ー押し倒したりしたら、まずいよな。
そう思いつつ、ドレスに手をかけようとしたその時、扉がノックされた。
いいところだったのにと舌打ちしつつ、
「どうぞ」
とぶっきらぼうに言う。
「失礼いたします。例のものをお持ちいたしました」
「ああ、ありがとう」
「例のもの? 何かしら?」
キャサリンの目が輝いたので、ジョンは優しく微笑み、口にする。
「ーケーキスタンドだよ。今は苺が旬だからね。キャサリンが甘いものが好きだと聞いて、用意させたんだ」
「まあ!! まあ!! 嬉しいですわ」
キャサリンは手を合わせ、興奮する。
グランド家のシェフに頼んで、彼女が好きそうなケーキをデザインしてもらったのだった。
執事が紅茶を注ぐのを確認し、ジョンはキャサリンに聞く。
「どこから食べてもいいよ。キャサリンの好きなものを教えてくれ」
「そうですわね…。えっと」
キャサリンは子どものように迷い、1つを指差す。
「これでしょうか。美味しそうですもの」
「そう? それなら私もそれにしようと。ほら、ケーキを合わせて」
軽くケーキを触れ合わせると、まるで2人がキスしたみたいだった。
執事が去っていくと、2人はゆったりとした時を過ごす。
「あら、美味しいですわ!! どうやって作るのかしら?」
「後でこっそりシェフを呼ぼうか?」
「はい!! 嬉しいですわ!!」
素直なキャサリンに、ジョンは満足し、まるで結婚式みたいだと微笑むと、自分もケーキを口にする。
「うん、美味しい。キャサリンに乾杯!!」
ケーキを持ち上げると、キャサリンがますます真っ赤になっていく。
ジョンはにこりと笑うと、ケーキを口に運ぶのだった。




