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りんごのイス

作者: みり味りん
掲載日:2026/03/05

 3月ある街に、一本のりんごの木が植えられました。街の人たちは、これから見られるであろうたくさんのりんごに胸を躍らせ、代わる代わるたくさん水をやりに来ます。彼らは肥料もやり害虫も取り、まるでこの木は街の子どもであるかのように大切に育てているようです。りんごの木はそれがとても嬉しく、充分な愛と栄養が行き届いた土で、すくすく育ちました。

 木に小さなりんごがなり、背も高く育ったころ、街に大きな津波がやってきました。りんごの木は流されませんでしたが、人々は街から離れ、それから何年も誰一人帰ってこない期間が続きました。木には水が与えられなくなり、栄養不足になっていきました。人に手入れがされなければ、実も葉っぱも野生動物たちが全部食べてしまいます。土は乾燥して葉っぱも無くなり、いつしか実を付けることもできなくなりました。

 そんなある日、街に見知らぬ人がやってきました。りんごの木は

「助かるかもしれない」

と思いました。この人たちがまた手入れをしてくれるかもしれないと考えたからです。しかし聞こえてきたのは、こんな声でした。

「あったあった。これがあの奇跡のりんごの木か。津波でも流されなかったんだって?これでイスを作ったら、売れないわけがない。」

木は恐怖を感じました。この数年間一人で街の人たちを待ってきたのに、こんな知らない人に近いうちに切られるかもしれないと思ったのです。

 数日たって、先日来た家具屋が今度は仲間を連れてやってきました。手には木を切る機械が見え、りんごの木は自分の人生はここまでかと思いました。そして最後の抵抗として、小枝を力いっぱい振り落とします。家具屋を追い払おうと考えたのです。しかし家具屋は言いました。

「なんだ、ちょうど枝が落ちてくれて助かった。こりゃあ加工が楽に済むね。」

りんごの木は、どうすることもできませんでした。

 今、ある都会の小さなお店に、他の伝統的な家具に混ざって美しいりんごの木のイスが並んでいます。

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