月光をその手に
それから数時間後、アストロは目が覚めた。疲れはほとんど残っていないが、体の芯はまだ重い。傍に置いてあるコップの水を一気に飲み、部屋の扉を開けた。
部屋を出ると、アジトの中にルークは居なかった。恐らく出かけたのだろう。アストロは財布を懐にしまい、アジトから出た。出かける際に、手に入れたAkatsukiも懐に入れた。
ここは【トウヨウ】。この国の首都であり、最も設備が整った都市である。アストロが向かう先は闇市だ。
NR-KS Akatsuki――正式名称は、Noah Reactor-Katana System Akatsuki。Noah Reactorという武器開発会社が販売している商品だ。市場価格は八十万。中古でも六十万は下らない。
この社会を生き抜くには、自分で自分を守る他ない。そのため、様々な武器製造・開発を行う企業が多数現れた。現代において武器は生存必需品となっている。
Noah Reactor。
安価・高出力を売りにした大量生産企業。
Lux Series。
精密制御と高品質で知られる高級兵装ブランド。
Luminary Defense。
各国政府と直接契約を結ぶ正規軍需企業。
Helios Arms。
ZERO戦争期に勢力を拡大した老舗軍需メーカー。
Prometheus Industries。
ルミナイト発見の中心企業にして、戦争の火種。
Elysion Heavy Works。
Arkを含む大型機動兵器を製造する重工企業。
これらの企業が現在大手武器製造・販売メーカーだとされている。
アストロは闇市にやってきた。闇市といっても、屋台のようなものだけではない。この辺りには様々な店が密集している。その一角に、武器や装備を取り扱う店がある。
アストロは店に入った。個人店だ。中古品の買取や販売はここで行っている。アストロがカウンターの前に立つと、店主がゆっくりと近づいてきた。
「いらっしゃい。今日はどうした?」
「買取を頼む。これだ。」
アストロはAkatsukiをカウンターに置いた。店主はAkatsukiを手に取り、起動させた。
「NR-KS Akatsukiか。見たところ不具合や損傷個所はないな。四十万ってとこだな。」
「…もう少し何とかならないか。」
「うーん…まぁ、兄ちゃんはうちの常連だからな。四十五でどうだ。」
「それで頼もう。」
店主はAkatsukiをカウンターの棚にしまい込むと、すぐに現金四十五万を手渡した。アストロは金額を確認し、店を後にした。
次に、アストロが向かった先はLux Seriesの店舗だった。白銀に輝く店内には、まるで美術品かのように丁寧に飾られた武器が並べられている。
アストロの銃、LXS-LHS-03 Noctis。
Lux Series-Laser Handgun System Noctis。
これもLux Seriesが取り扱っている商品だ。Noctisはこれまで三回に渡る改良・設計の見直しが行われてきた。第一世代型は百万程度であったのに対し、第三世代型は二百八十万となっている。
Noctisとの出会いは二年前のことだった。Dead SkyがLux Seriesの保管倉庫を襲撃した事件が起きた際、アストロがDead Skyを制圧した。すべての商品はLuxへと返還され、Luxは謝礼として、最新モデルのNoctisをアストロに送った。
性能の高いLuxの製品を気に入ったアストロは、これまで使用していたNoah Reactorの製品をすべて売り払ってしまった。仲間からは余計な出費が増えることで怒られてしまった。
アストロは店に入ると、店員がすぐに駆け付けた。店員は、アストロの腰にある銃を一瞬見て、すぐににこやかな笑顔で出迎えた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような品物をお探しでしょうか。」
「短刀を探している。レーザー式で、軽いものがいい。」
「すぐにご案内いたします。こちらへどうぞ。」
アストロは店員に連れられ、近接武器専用の棚へ案内された。そこに並ぶのは、どれもが美しく、まるで装飾品かのように飾られた武器。
「短刀で、レーザー式ですと、こちらがおすすめですね。」
店員が差し出したのは、LXS-BDS-02 Umbra。
周囲の光を吸い込むかのような黒銀のレーザー刃に、アストロは思わず見とれてしまった。手に取ってみる。軽い。握り心地も悪くない。これならば、鉄板でも装甲でも確実に焼き切ることができる。
――しかし、どうもしっくりこなかった。一級品であることは間違いない。しかし、自身が求めている武器ではない。そう感じた。
「…他には」
「…えぇ、こちらはどうでしょうか。」
店員の表情が一瞬変わる。次に差し出されたのは、白銀のレーザー刃の短刀だった。
LXS-BDS-04 Tsukikage
Lux Series – Blade Dagger System Tsukikage。
Tsukikageという和風な名前も気に入った。握り心地は先ほどの者より良い。まるで月光を思わせるかのような、レーザーの色も気に入った。
太陽を失った世界で、人が思い出すのは月だ。優しい月光の光を思わせる。黒雲によって月も見えなくなってしまったが、この短刀はこの暗い世界を照らし、仲間を守る希望の光。そう思えるほどだった。
「そちらはレーザーを飛ばすことも可能となっております。さらに、刀身の延長も可能となっております。中距離、遠距離戦に適しています。」
「これを貰おう。いくらだ?」
「百二十万円でございます。」
アストロは一瞬硬直した。仲間に怒られる未来が見えたが、すぐに財布を取り出し、一括で支払いをした。財布はとても薄くなったが、後悔はない。
店を出る際、アストロの腰にはNoctis。懐にはTsukikage。これで装備は整った。これまで使用していた安い短刀とはわけが違う。
「いい買い物だった。」
「またのお越しをお待ちしております。」
店員は深々と頭を下げた。アストロはそのまま月光を懐に、アジトへと向かった。




