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太陽なき世界のアストロ  作者: 夕凪


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3/8

ルミナイトの街

「…これで終わりか。」

「まさか…Arkがやられてしまうとは。」


 アストロは銃を構え、天井のスピーカーとカメラを撃ち抜いた。アジトを後にし、腕のデバイスで仲間に連絡をする。


「バトルシステム停止。アジト半壊、プロトタイプArk機能停止、黒幕不明。これでいいだろう。」


 アストロはキーボードを叩き、メッセージを送信した。黒いローブが風になびいている。アストロはこの黒雲に覆われた都市を見つめて呟く。


「…昔の写真とは全然違うな。」


 まだ太陽があったころとは全く違う。温かい光に包まれていた都市は、今や永遠に太陽の光を浴びることはない。そこにあるのは人工灯が照らす冷たい光だけだった。


 人類は太陽を失った。


 八十年前に発見された新エネルギー、【ルミナイト】。発見からわずか十年足らずで現代社会に組み込まれたこの物質は、あらゆる既存資源を凌駕していた。


 始まりは、自動車だった。

 やがて、家電。

 そうして、戦車。

 最後は、兵器。


 それが誕生したのは六十年前だった。人類史上最悪とされた兵器、【ZERO】。複数の国家が核兵器の代わりにZEROを持つようになり、世界を巻き込む戦争へと発展した。ZEROが大量に放たれた結果、空は焼かれ、黒雲だけが残った。


 ZEROが引き起こしたのは単なる爆発ではなかった。高密度ルミナイト圧縮反応――大気中のルミナイト微粒子と反応した。


 皮肉にも、人類を生かし続けたのもルミナイトだった。小指ほどの大きさで都市のエネルギーを賄えるそれは、人工光源として利用された。植物の栽培や暖房として使われ、人類は新たな生活を始めた。


「…寒い。」


 アストロは急に寒気を感じた。体温が下がってきている。太陽の光が届かなくなったことで、世界は冷えてしまった。同時に、人々の心まで冷めてしまっている。


「…帰るか。」


 アストロは一人でそう呟き、歩き出した。行先は、【Night Watch】のアジトだ。アジトは地下にある。アストロはアジトの扉の前までやってきた。


 Night Watchはアストロが所属するチームで、他の犯罪者組織に対抗するために結成されたチームだ。この社会において、最早安全という言葉はない。生きるために人は集まり、また別の集団から奪う。


 アストロはコードを入力し、カードキーをスキャンする。扉のセキュリティが解除され、アストロは静かにアジトへ入った。


「おお、アストロ、帰ったか。」

「アルタイル。他のメンバーはどうした?」

「あぁ、Dead Skyの監視と食料の補給に分かれてる。俺とお前がココの警備担当になった。」

「…そうか。」


 アストロは壁によりかかる。物音ひとつしない。


「アストロ、少し休め。また無理して戦ったんだろう。」

「…」


 アストロは答えなかった。そして、机に置かれた写真立てを手に取った。まだ太陽が輝いている時代の写真が飾られている。太陽の写真を見つめたまま、無意識に指先がその光に触れていた。


 青く澄んだ空。

 太陽の光を浴び、意気揚々と育つ野菜。

 野菜畑の中を駆け回る子供たち。どれもがまるで幻想のように見えた。


 アストロは何も言わず、写真立てを置いた。冷蔵庫を開け、冷えたドリンクを一気に飲む。


「…ルミナイトの残量は?」

「…かなり厳しいね。節約しても、ひと月が限界だと思う。近場ではもうルミナイトの採掘場は他のチームに抑えられてる。」

「Dead Skyか?」

「あぁ。Dead Skyがここら一帯の採掘場を支配してるからね。お陰でどこもエネルギー不足だ。食料価格も高騰してるよ。」


 これが、ルミナイトだけに頼った世界の現状だ。ルミナイトの採掘量が増えれば増える程景気は良くなり、逆に減れば減るほど景気が悪くなる。食料を生産するにもルミナイトを使用するため、ルミナイトの採掘量が減るということは生活が困窮することを意味する。


「政府もほぼ機能してないからね、国民が死のうが倒れようがお構いなし。お偉いさん連中の考えてることはわからないや。」

「あぁ、本当にな。」


 アストロはそう言って、ドリンクの空き瓶を捨てた。そして、扉の方へと向かった。


「どこへいくつもりだ?」

「Dead Skyのルミナイト採掘場を奪いに行く。」


 アストロが扉を開けようとした瞬間、アルタイルに肩をつかまれる。


「よせ。疲れた状態であそこに乗り込むのは自殺行為だ。それも、一人で。」

「だが、このままでは生活が維持できなくなる。」

「仮に採掘場を奪えたとして、Night Watchが他チームに狙われるだけだ。そうなったらアジトでさえも安全が脅かされるんだ。今は動かない方がいい。」

「…すまない。」


 アストロはそう言って、自室の扉を開けた。室内は薄暗く、冷えている。天井の照明は不安定に点滅している。


 アストロはベッドへ寝転がる。一気に疲れが押し寄せてきた。


「…太陽があれば。」


 太陽さえあれば、このルミナイトに頼った生活も終わる。太陽さえあれば、誰もが光の中で暮らすことができる。


 そんなことを考えながら、アストロは眠りについた。アストロは、前々から太陽に興味を持っていた。これは、チームの誰にも明かしていない秘密である。

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