遠い太陽
今日も町は暗く静かだった。住民がひそひそと話す声だけが聞こえる。日常の光景だ。
おでんを売る闇市の屋台に、一人の客が席に着いた。酒を飲みながら談笑する客をよそに、男は大根とちくわを頼んだ。男は黒いローブのようなものを身に纏い、仮面をつけている。まぁ、今の世の中ではおかしな格好ではない。
男はおでんの皿が目の前に出されると、傍の割り箸を取った。そして、一口、また一口と静かに口に運んだ。口へ運ぶ間隔はとてもゆっくりで、よく味わっている様子だった。
男がおでんを頬張っていると、傍で爆発音が響いた。店内は一瞬だけ静まり返り、客は爆発音が聞こえた方を向いた。しかし、店内はすぐにまた談笑で満たされた。この爆発も、もはや日常となっている。
「…ごちそうさん。」
男は代金千二百五十円を支払い、颯爽と店内から走り去った。そして、懐から奇妙な形をした銃を取り出し、爆発音が聞こえた方へ向かった。
男が現場に到着すると、そこでは巷で話題の強盗集団、【Dead Sky】の構成員が民家に車で突撃し、金品を持ち去っている最中だった。男はすぐに銃を構え、構成員に向かって発射した。水色の閃光が、構成員に向かって飛んだ。構成員は全員で七人。そのうちの三人は何が起こったのか理解する間もなく倒れた。
男の銃の発射音があたりに響く中、集まってきた野次馬の視線と、残った四人の構成員の視線が男に向けられる。
「…Dead Skyか。」
「…殺せ!」
構成員は銃を構え、男に向かって発射した。男は華麗に避けていく。男の装甲にレーザーが掠めていく。避けると同時に銃を撃ち、一人、また一人と構成員が倒れていく。とうとう、残ったのは最後の一人だった。
「殺し屋風情が!!!」
残った構成員は刀を抜き、男に襲い掛かった。男は銃を腰にしまい、構成員に殴りかかった。首の横に一撃、腹に三発。そして、足をかけて転ばせ、最後は銃を撃った。
「…末端か。」
男は殺した男のバッジを取った。階級を確認すると、すぐにバッチを地面に捨てた。男は、腕に取り付けられているデバイスで連絡を取り始めた。
「Dead Skyの末端構成員を七名殺害した。」
「了解。ところで、例の件の情報は掴めたか?」
「あぁ。お前の予想通り、【夜葬】が主犯だ。これからアジトを潰す。」
「応援は必要か?」
「必要ない。一人で十分だ。」
男はそう言って通信を切った。傍で子供が壊れてしまった家を見て泣いている。一瞬その様子を見て立ち止まる。右手は小刻みに震えていた。直視したくなかった。
「お父さんが…お母さんが…!!」
「…」
男は黙ったままだった。脳裏に蘇る、幼いころの自分。焼け焦げた家、倒れてくる燃え盛る棚、やけどと傷だらけの両手。
あの日々を思い出すと、また頭痛が襲ってくる。そして、いつもの気落ちした気分に落とされる。実に悪い気分だ。
子供は男の方を向き、泣きながら問いかけた。
「あんたは…ヒーローじゃないの?」
「…どうだろうな。」
男はそう呟き、次の目的地を目指した。
男は次の目的地に到着した。夜葬のアジトだ。夜葬はDead Skyと同様の犯罪者集団だ。人身売買から殺し屋稼業まで行う極悪非道な集団である。
「…始めるとするか。」
男は右手に短刀、左手に銃を持ち、アジトへ侵入していく。隠れることなく正面から侵入したため、当然警報が鳴った。これは、男の計画の一部だった。
すぐさま大量の人間がやってくる。刀を持った人間が男を取り囲んだ。男は歩みを止めることなく、ゆっくりと歩いていく。
「止まれ!殺すぞ!!」
「殺す殺す…どこへ行ってもそれしか聞かなくなったな。」
男はそう呟き、すぐに敵三人を撃った。すぐに敵が刀を振り上げるが、男は短刀で相手の刀を弾いた。敵の刀は次々に宙を舞い、その瞬間に敵は倒れていく。敵は気づかぬ間に撃たれている。
「…上か。」
男は視線をゆっくりと二階へ向けた。
次の瞬間、天井が赤く裂けた。熱線が床を薙ぎ、木材が一瞬で炭化する。焦げた匂いが広がる。
男は横へ滑るように移動し、壁に背を預ける。光線が通過した跡は、煙を上げて赤く輝いている。
「…NR-KS “Akatsuki”」
「よくも我々のアジトを荒らしてくれたな。」
そこに現れたのは、夜葬の幹部だった。装甲を身に纏い、赤く光る刀を構えている。レーザー刀だ。
「答えろ。お前らの悪事を隠すことなく白状しろ。」
「はいそうですか、と答えるわけがないだろう!!」
幹部は刀を振り、赤い斬撃を無数に飛ばしていく。赤い斬撃が飛んでくるとき、男の目が光る。世界がわずかに遅くなり、点と点が線でつながる。軌道が見えてくる。同時に、眉間のあたりに表現しにくい不快感が押し寄せる。男は銃で斬撃を撃つ。わずかに軌道がずれ、男へと直撃することはない。
男のローブに斬撃が当たるが、掠り傷程度である。途中、僅かに男の足や脇腹から出血が見られたが、男に斬撃が直撃しないことに、幹部はだんだんと腹を立てていった。
「畜生!!なんで当たらねぇんだ!もう一度!!」
その時、刀の赤い光が消えた。幹部は突然武器が機能しなくなったことに驚き、刀を見つめてしまった。
「何で…!どうしっ…」
その時、男の銃から水色の光が放たれた。幹部はその場に倒れた。即死だった。男は幹部の死体に近づき、NR-KS Akatsukiを拾い上げながら呟いた。
「…Noah Reactor製の武器は冷却が必須だ。オーバーヒートには気をつけろ。」
男はもう動かない死体に向かって言った。返答は、もちろん返ってこなかった。その時、男のデバイスに一本の着信がきた。
「アストロ、順調か?」
「あぁ、たった今幹部を撃破した。残党が残っていないか確認が終わり次第帰還する。」
男――アストロはそう言って通信を切った。この一部始終が、傍に置かれている監視カメラに収められていることを、アストロが知ることはなかった。この映像を遠くから確認しているある人物が、一言呟いた。
「あれが…イーグルアイか。」




