止まれない理由
腰の痛みは、はっきりとした“痛み”ではなかった。
ズキッとくるわけじゃない。 動けなくなるわけでもない。
ただ、 沈むような重さ。 抜けない違和感。
(この程度で)
優希は、自分を叱る。
(止まるわけにはいかない)
青ヶ崎高校の水泳部は、今が一番大事な時期だ。 自分は、200の主力。
誰かが代わりに出られるわけじゃない。
それに——
(結果を出さないと)
優希には、背負っているものが多かった。
主席入学。 文武両道。 期待。
期待されることに、慣れてしまった。 応えるのが、当たり前になっていた。
放課後、図書室。
椿が、向かいの席からちらりと見る。
「優希、最近顔色悪くない?」
「そう?」
無自覚だった。
「ちゃんと寝てる?」
「寝てるよ」
ただ、眠りが浅いだけだ。
夜、ベッドに横になると、 腰の感覚がはっきり分かる。
(考えすぎ)
そう言い聞かせて、目を閉じる。
翌日も、泳ぐ。 翌日も、勉強する。
模試の結果は、悪くなかった。 学年上位を維持している。
(ほら、できてる)
だからこそ、やめる理由が見つからない。
自主練の帰り道。
「水城」
碧人が言う。
「今度のオフ、ちゃんと休めよ」
「オフの日も、軽くは泳ぐけど」
「……そうじゃなくて」
碧人は、言葉を探す。
「“何もしない日”な」
優希は、少しだけ笑った。
「それ、苦手」
「知ってる」
だから、言った。
優希は歩きながら、ふと思う。
(この人は、どうして)
どうして、自分が見ないふりをしている部分に、気づいてしまうのだろう。
怖くなる。
このまま踏み込まれたら、 自分は、立ち止まってしまうかもしれない。
それが、怖かった。
「平気だから」
そう言って、話を終わらせた。
その背中を、碧人は見送る。
(……このままじゃ)
嫌な予感が、 胸の奥で静かに広がっていた。
水面は、まだ静かだ。 けれど、底のほうでは、 確実に、何かが崩れ始めている。
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




