違和感との葛藤
違和感は、数字には表れなかった。
「ラップ、安定してる」
顧問の先生が言う。
「後半もしっかりまとめられてるな」
優希は軽く頷いた。 自分でもそう思う。
フォームは崩れていない。 タイムも、大きくは落ちていない。
(ほら、大丈夫)
そう思うたびに、胸の奥が少しだけ冷える。 “納得させている”感覚が、どこかにあった。
一方で、碧人は違った。
ストップウォッチを持つ手が、無意識に止まる。 ターン後の一瞬。 浮き上がりで、ほんのわずかに動きが遅れる。
(今の……)
言語化できない。 でも、見慣れた泳ぎと違う。
練習後、更衣室へ向かう途中。
「水城」
呼び止められて、優希は振り返る。
「最近さ」
碧人は少し言いづらそうに続けた。
「練習、増やしてない?」
「増やしてないよ」
即答だった。
「いつも通り」
「そっか」
今日も碧人はそれ以上聞かない。
聞いても、答えは変わらないと分かっていたのだろう。
優希は、自分に厳しい。 限界を、限界だと思わない。
それが強さであり、 同時に、危うさでもある。
別の日。 スタート練習のあと。
優希は、腰を軽く回してからゴーグルを外した。 ほんの一瞬の仕草。
それを、碧人は見逃さなかった。
「……水城」
「なに?」
「病院、行った?」
「行くほどじゃない」
少しだけ、声が硬くなる。
「どこが悪いとかじゃないし」
「でも」
「大丈夫」
ぴしゃりと、会話が切れた。
優希は悪気なくそう言った。 むしろ、心配をかけたくなかった。
でもその言葉は、 碧人の胸に小さな棘を残す。
(大丈夫って言うときほど)
危ない。
碧人は、それ以上何も言わなかった。 言えなかった。
今の自分は、 「止める側」じゃない。
ただのチームメイト。 ただの、同じ目標を追う一人。
それが、悔しかった。
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




