青ヶ崎高校という場所
青ヶ崎高校は、県内でも有数の進学校だ。
廊下に貼られた模試の順位表、進路資料室の分厚い大学案内。
ここでは「勉強できる」ことは特別じゃない。できて当たり前で、できなければ置いていかれる。
放課後の図書室。 優希は数学の問題集を開き、シャープペンを走らせていた。
(この条件、いらないな)
一度消して、書き直す。途中式を省く癖はない。誰に見せるわけでもないノートに、丁寧に思考の跡を残していく。
「相変わらず解くの早いね〜」
隣の席に腰を下ろしたのは、橘椿だった。
同じクラスで、水泳部ではないが、優希の数少ない親友だ。
「今日も部活あったんでしょ〜?」
「朝練だけ」
「それでこの集中力……もう、ほんっと意味わかんないよ」
椿は笑いながら言うが、どこか本気の尊敬が混じっている。 優希は小さく肩をすくめた。
「別に。慣れてるだけ。」
「それがすごいんだよ〜。もう優希ったら努力家なんだから」
優希は何も言わなかった。
努力、という言葉は好きじゃない。特別なことをしているみたいに聞こえるからだ。
自分はただ、やるべきことをやっているだけ。やらなければ、結果が出ない。それだけの話だ。
椅子を引く音がした。
「ここ、空いてる?」
顔を上げると、そこに立っていたのは碧人だった。 制服の袖を少しまくり、ノートと参考書を抱えている。
「どうぞ」
短く答えると、碧人は向かいの席に座り、黙ってノートを開いた。
図書室に、紙をめくる音とシャーペンの走る音だけが戻る。
「……この問題さ」
碧人が視線を上げずに言った。
「場合分け、こうした方が楽じゃないか?」
差し出されたノートを覗き、優希は一瞬考える。
「確かに。こっちの方が無駄がない」
「だろ?」
その言葉に、碧人は少しだけ嬉しそうに笑った。
「解き方、きれい」
「優希様にそう言っていただけるだなんて光栄です」
からかうような声。けれどその奥に、真剣さがあるのが分かる。
(私だけじゃない。この人も、ちゃんとやってる)
図書室を出る頃、外はもう薄暗くなっていた。
「優希、一緒に帰ろ」
「うん」
並んで歩く帰り道。たくさんの話をした。部活の話、授業の話、どうでもいい会話。
不思議だった。 誰かと一緒にいるのに、集中が途切れない。むしろ、心が安定している。
(……なんでだろ)
その理由を考えるのが、少し怖くて。 優希は、足元だけを見て歩いた。
まだこの時は知らない。 この静かな日常が、やがて大きく揺れることを。
水面の下で、何かが静かに沈み始めていることを。
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




