碧人の限界
碧人が、はっきりと疲れを見せたのは、十一月に入ってからだった。
朝のホームルーム。 問題集を開いたまま、動かない。
「……碧人?」
優希が小声で声をかけると、一瞬遅れて顔を上げた。
「あ、ごめん」
笑おうとするが、目が笑っていない。
(あ、無理してる)
それは、水泳をしていた頃の“限界前”の顔と同じだった。
模試の結果が返ってきた日。
碧人は、結果表を折って鞄にしまった。
「どうだった?」
聞くと、少し間があって。
「……下がった」
それだけだった。
放課後。 図書室。
いつもなら先に問題を解き始める碧人が、今日は机に突っ伏している。
「碧人」
返事がない。
「……碧人」
もう一度呼ぶと、ゆっくり顔を上げた。
「なに」
声が、低い。
「無理してない?」
その瞬間、碧人の表情が崩れた。
「無理してるに決まってるだろ」
小さな声。
「みんな、普通に伸びてるのにさ。俺だけ、足踏みしてる感じで」
拳を、ぎゅっと握る。
「努力しても、意味ないんじゃないかって思う」
優希は、何も言わなかった。
代わりに、隣の椅子に座る。
「碧人」
「……なに」
「それ、前の私と同じ」
碧人が、顔を上げる。
「怪我したとき、思ったの。頑張っても、戻れないかもって」
沈黙。
「でも、戻れた」
優希は、はっきり言った。
「完璧じゃなかったけど」
碧人の視線が、揺れる。
「……怖いんだよ」
初めて聞く、本音。
「目標が高すぎなんじゃないか。何やっても届かないんじゃないか、って。」
優希は、少しだけ微笑んだ。
「怖いって思えるのは、碧人が本気で取り組んでるからだよ」
そっと、言う。
「逃げてない証拠」
碧人は、深く息を吐いた。
「……ずるいな」
「支えてもらったから」
今度は、私の番。
その夜、碧人は久しぶりに、机に向かい直した。
(やっぱ碧人は強いなぁ)
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




