夏の終わりの音
引退試合の日は、驚くほど静かだった。
夏の朝。いつもと変わらない会場。
でも、優希には分かっていた。
(今日で、最後)
青ヶ崎高校として出る、最後の大会。
それでも――
ここまで泳いできた時間が、全部詰まっている。
アップを終え、スタート台の後ろに立つ。
腰は、もう大丈夫だった。でも、以前のような「無敵感」はない。
(それでいい)
今の自分の身体。今の自分の覚悟。
全部を受け入れて、泳ぐ。
スタート。
水が冷たい。腕が、しっかり水を捉える。
前よりも、無理がない。速さより、リズム。
(これが、今の私)
最後の50メートル。 苦しい。 でも、嫌じゃない。
ゴール。
顔を上げると、天井が滲んで見えた。
タイムは、自己ベストではない。でも、納得できた。
(あぁ。これで終わったんだ。)
ふと観客席に目をやるとみんなが手を振っていた。
後輩たち。顧問の先生。同級生。
そして、碧人。
目が合う。
何も言わない。ただ、深く頷いた。
更衣室。
ゴーグルを外し、タオルで髪を拭く。
(これで終わったんだな)
でも、後悔はなかった。
帰り道。
「終わったな」
碧人が言った。
「うん」
少し間があって。
「……楽しかった?」
優希は、少し考えた。
「しんどかった」
そう言って、笑う。
「でも、好きだった」
碧人も、同じように笑った。
夏が、終わった音がした。
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




