復帰の目処
診察室の椅子は、相変わらず硬かった。
「……順調ですね」
医師のその一言で、優希の肩から力が抜けた。
「完全復帰とは言えませんが、 条件付きで大会出場は可能です」
条件付き。 その言葉の重さは、よく分かっている。
「無理はしない。 違和感が出たら、すぐ中止」
頷きながら、優希は拳を軽く握った。
(泳げる...!)
プールに戻った日。最初は、アップだけ。
水に入る瞬間、身体が思い出すように、静かに馴染んでいく。
(……帰ってきた)
まだ完全復帰じゃない。
でも、水の中で呼吸を整える感覚は、確かだった。
「どう?」
プールサイドから、碧人が声をかける。
「思ったより、怖くない」
そう言うと、碧人は少し笑った。
「強いな。優希は。」
復活大会は、県大会よりも一段下の位置づけだ。でも、今の優希にとっては、十分すぎる舞台だった。
スタート台に立つ。
(完璧じゃなくていい)
タイムより、最後まで泳ぎ切ること。
スタートの合図。
水を掴む感覚。
ターン。
腰に、痛みはない。
(いける)
ゴール。
電光掲示板の数字は、自己ベストには遠い。それでも。
「……戻ってきたな」
碧人の声。
優希は、ただ頷いた。
胸の奥が、熱かった。
(私は、まだ前に進める)
水泳も、受験も。
初めまして。お読みいただきありがとうございます♪
白瀬翠と申します。
水泳部を舞台とした健全なストーリーが少ないと感じたので今回このような作品を執筆させていただきました。
皆様に楽しんでいただけると幸いです。
また、誤字・脱字、不適切な表現等がありましたらコメントで教えていただけると嬉しいです。
その他なんでもお待ちしております。
この作品が日々努力するあなたの背中をそっと押せるような一作となりますように。




