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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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第四章 最初の一歩は、民から

国を立て直すとは、

城を建てることではない。

制度を整えることでもない。


まず必要なのは、

「この国に、まだ関わる価値がある」と

誰かに思ってもらうことだ。


瓦礫の山の前で、

王子は剣を抜かなかった。

命令もしなかった。


彼が選んだのは、

肩書きを脱ぎ、

民と同じ地面に立つこと。


それが、

最も危険で、

最も遠回りな一歩だとしても。



第四章 最初の一歩は、民から


だが、民は動いた――

それは奇跡でも、神の力でもなかった。

もっとずっと、弱くて、頼りない理由だった。


「……どうせ、このままでも死ぬ」


誰かが、ぽつりと呟いた。


その言葉は怒号よりも重く、広場に落ちた。

民たちは互いの顔を見合わせる。

痩せた腕、荒れた手、疲れ切った目。

ここに集まっている者たちは、すでに何度も裏切られてきた。


「王子だか何だか知らねえが……」


一人の男が前に出た。

煤に汚れた服、背中は曲がり、目だけが鋭い。


「今さら、何を信じろってんだ」


レオンは、その視線を受け止めた。


「信じなくていい」


ざわめき。


「だが、見てくれ。

私は逃げない。

ここで、君たちと一緒に働く」


その言葉に、アステリアが小声で叫ぶ。


「え、えっ!?

王子様が肉体労働ですか!?」


「黙っててください」


レオンは一歩、前に出た。


「瓦礫を片付けるのも、城壁を直すのも、私が先にやる」


「口だけじゃねえだろうな」


「違う」


王子はマントを外し、地面に置いた。

王族の証である装飾剣も、そっと脇に置く。


「今日から私は、ただの一人の労働者だ」


沈黙。


やがて、最初の一人が動いた。

少年だった。

まだ十六か、十七か。

迷いながらも、瓦礫に手をかける。


「……俺、やる」


次に、女が動いた。

赤子を背負い、片手で石を運ぶ。


「食料が出るなら……」


次々に、民が動き始める。


その様子を見て、アステリアは感動していた。


「……あの、すごいです」


「奇跡じゃありません」


レオンは汗を流しながら答えた。


「生活です」


日が傾く頃、城跡は少しだけ形を取り戻していた。

瓦礫は積まれ、通路ができ、崩れた壁の一部が露出する。


「……王子」


あの男が、再び前に出た。


「名前は、ガルドだ。

元は石工だった」


「力を貸してくれますか」


ガルドは少し黙り、うなずいた。


「……今日だけな」


その夜。


焚き火の周りで、アステリアが食料を配っていた。


「はい!パン一個!

……あ、数え間違えました!」


「女神様、それ今日三回目です」


「すみません!」


だが、民は笑っていた。

久しぶりの、かすかな笑いだった。


レオンはその光景を、少し離れた場所から見ていた。


「……始まりましたね」


アステリアが隣に来る。


「はい」


「でも、これで終わりじゃない」


王子は空を見上げた。


「これから、もっと恨まれます。

もっと失敗します」


「それでも?」


「それでも、やる」


アステリアは、静かに頷いた。


「……やっぱり、あなたは王です」


その言葉に、レオンは答えなかった。

だが、民の焚き火の光が、彼の背中を照らしていた。


この夜、誰も知らなかった。

この小さな“働き口”が、やがて国を救う第一歩になることを。


――国の再建は、ここから始まった。

信頼は、金で買えない。

だが、時間と覚悟でなら、

少しずつ積み上げられる。


報酬のない仕事。

約束だけの未来。

それでも民が動いたのは――


王子が「逃げなかった」からだ。


そして、

女神の用意した食料は奇跡ではない。

奇跡は、

疑いながらも手を動かした

名もなき民一人ひとりの中にあった。


国は、まだ貧しい。

借金も、敵も、山ほど残っている。


だがこの日、

確かに一つだけ増えたものがある。


それは――

「立て直せるかもしれない」という、

かすかな希望だ。

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