ダンジョンへの道
女神「今日はダンジョンです!」
冒険者一同「……はい?」
女神「調査だから安心して!」
剣士「調査、ですよね?」
女神「うん!」
「転ばなければ!」
僧侶「不安しかありません……」
魔術師「女神が先頭という時点で、前例がありません」
——だが、
この世界では「前例がない」ことほど、
安全なこともない。
なぜなら、
一番先に転ぶのは、
いつも女神だからだ。
⸻
ダンジョンへの道
――冒険者たちの場合
王城正門前。
今度は、
装備の整った冒険者たちが並んでいた。
剣士、魔術師、僧侶、斥候。
そして――
「よーし!」
一番軽装の女神が拳を上げる。
「今日はダンジョン調査だよ!」
剣士が一瞬、固まる。
「……女神様?」
「調査、ですよね?」
「うん!」
「倒さなくていいやつ!」
僧侶が小声で祈る。
「神よ……」
「神ご本人が一番不安なのですが……」
⸻
街道。
アステリアは先頭。
三歩進んで、
石につまずく。
「わっ」
斥候が即座に支える。
「危ない!」
「ありがとう!」
魔術師が囁く。
「……あの方」
「加護とか使わないんですか?」
「転んだほうが早いから!」
「理屈が通ってない!」
⸻
ダンジョン入口。
重い石扉。
「これ、どうやって開くんだ?」
剣士が考える前に――
アステリアが押した。
転びながら。
ごん。
石扉、開く。
沈黙。
「……開門条件」
魔術師が呟く。
「“一定以上の神性衝撃”?」
僧侶が震える。
「頭突きで発動する聖域……」
アステリアは笑う。
「入れるならOK!」
⸻
ダンジョン内部。
罠だらけの通路。
アステリアが言う。
「ここ、怪しいよ!」
次の瞬間、
自分で踏む。
ぱちん。
罠、発動――しない。
斥候が目を見開く。
「……解除されてる?」
魔術師が分析する。
「神性反応で」
「罠そのものが“諦めた”としか……」
僧侶がメモを取る。
《教訓:女神を先頭に立たせると、罠がやる気を失う》
⸻
途中。
魔物が現れる。
冒険者たちが構える。
アステリアは慌てる。
「えっ、戦うの!?」
「聞いてない!」
剣士が叫ぶ。
「女神様は後ろへ!」
アステリアが下がろうとして――
また転ぶ。
その拍子に、
魔物の攻撃が空振る。
魔物、壁に激突。
「……倒れました」
「倒してないよ!?」
「転んだだけだよ!?」
僧侶が真顔で言う。
「それを」
「奇跡と言うのです」
⸻
探索終了後。
冒険者ギルドの報告書。
本日のダンジョン調査
危険度:中
被害:なし
理由:女神が先頭だったため
受付嬢が首を傾げる。
「……意味、分かりません」
冒険者たちは、
声を揃えて言った。
「分からなくていいです」
⸻
帰り道。
アステリアは言った。
「ね?」
「ダンジョン、平気だったでしょ!」
剣士が苦笑する。
「平気というか……」
「常識が死にました」
アステリアはにへっと笑う。
「それでいいよ!」
ドジだから、
一人じゃ進めない。
でも――
だからこそ、誰も置いていかない。
その日から。
冒険者たちの間で、
新しい言葉が生まれた。
「女神先行は、最強の安全策」
誰が最初に言い出したかは、
記録に残っていない。
だが、
ダンジョンは今日も、
少しだけ優しくなっていた。
剣士「結局、誰も怪我しなかったな」
斥候「罠も魔物も、やる気をなくしてた」
魔術師「理論は破綻していますが……」
「結果は完璧です」
僧侶「神の導きとは……」
女神「えへへ」
「転んだだけなのに」
冒険者たちは理解した。
この女神は、
守る存在ではない。
皆で守らないと、世界のほうが危ない。
だから今日も、
冒険者たちは声をかける。
「足元、気をつけてください!」
女神は笑って答える。
「ありがと!」
——その一言で、
ダンジョンは今日も、
静かに攻略されていく。
※ 女神先行、推奨
※ 罠は心が折れる
※ 常識は持ち込まないこと




