さあ、出かけよう—— パレードが、始まるよ。
この歌は、
英雄のための歌ではない。
奇跡を起こした者の歌でも、
勝利を誇る歌でもない。
転んだまま立ち上がり、
失敗したまま笑い、
それでも同じ道を歩き続けた者たちの歌だ。
神であっても、
王であっても、
商人であっても、
ただの一人であっても。
この国では、
歩き続けること自体がパレードになる。
その行進の、
小さなテーマソングとして――
この歌は生まれた。
⸻
さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。
朝は、いつも同じようにやって来る。
市場が開き、
パンの匂いが漂い、
誰かが転び、
誰かが笑う。
昨日、大事件が起きていようと、
昨日、神と王女が大喧嘩していようと、
昨日、地獄の晩餐会が開催されていようと。
朝は、来る。
奇跡がなくても。
完璧じゃなくても。
女神は今日も書類を落とし、
王女は眉間に皺を寄せ、
商人は胃薬を探し、
民はそれを見て、なぜか安心する。
「今日も、いつも通りだな」
それが、この国の強さになった。
神はもう、空から見下ろさない。
人もまた、地面に縋らない。
同じ高さで、
同じ失敗をして、
同じ方向を向く。
だからこの国は、
遅くて、うるさくて、
やたら面倒で――
それでも、前に進む。
パレードは、
楽器が揃ってから始まるものじゃない。
太鼓がずれ、
笛が外れ、
誰かがフライングして、
誰かが慌てて追いかける。
それでも、歩き出した瞬間、
それはもうパレードだ。
さあ、出かけよう。
旗は少し破れていていい。
靴は泥だらけでいい。
途中で転んでもいい。
立ち止まらなければ、それでいい。
この国の行進は、
誰かを置いていかない。
完璧じゃないが、見捨てない。
うるさいが、逃げない。
怖いが、話せる。
そんな仲間たちと一緒に。
さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。
今日もこの国は、
だいたい平和だ。
⸻
そして、誰も気づかないところで、
パレードは少しずつ形を変えていく。
子どもたちは、女神を見ても祈らない。
代わりに言う。
「また転ぶ?」
アステリアは苦笑して答える。
「……たぶんね」
それでいい。
それがいい。
王女は相変わらず腕を組み、
群衆の端から全体を見渡している。
問題が起きれば止める。
起きなければ、何もしない。
誰も気づかないが、
それが一番難しい仕事だ。
商人は、帳簿を抱えて歩く。
赤字は消えない。
胃も相変わらず痛い。
だが、倒れない。
なぜなら彼は知っている。
この国では、
倒れたら誰かが起こす。
それを、
神も、王女も、民も、
もう当然のこととして受け入れている。
奇跡は起きない。
だが、絶望も起きにくい。
誰かが声を上げれば、
誰かが聞く。
誰かが怒れば、
誰かが止める。
誰かが泣けば、
誰かが隣に座る。
それだけのことだ。
それだけのことが、
どれほど難しく、
どれほど尊いかを、
この国は知ってしまった。
だから今日も、
派手な進歩はない。
革命もない。
英雄もいない。
あるのは、
少し騒がしくて、
少し不格好な日常。
でもそれは、
確かに続いていく。
さあ、出かけよう。
明日もきっと、
何かやらかす。
でも大丈夫。
この国はもう、
それを前提に回っている。
パレードは終わらない。
終わらせない。
歩いている限り、
それはずっと、パレードだ。
今日もこの国は、
だいたい平和です。
おまけ
『だいたい平和パレード』
『だいたい平和パレード』
朝の鐘が ちょっとずれて
パンを焦がして また転んで
昨日の失敗 靴に残って
それでも街は 目を覚ます
書類は山 ため息ひとつ
胃薬探して 空を見た
神さまなのに 土だらけで
王様なのに 膝にあざ
完璧じゃないこと
もう 知ってる
でも 逃げないことだけ
忘れない
さあ、出かけよう——
パレードが始まるよ
旗は破れててもいい
足並みは揃わなくていい
転んだら 笑えばいい
泣いたら 隣にいればいい
今日もこの国は
だいたい平和です
(語り)
「刺すな」
「刺さない」
「ほんとに?」
「ほんとに」
怒鳴り声と 笑い声
同時に響く 広場で
怖い王女が 腕を組み
うるさい女神が 手を振った
値段のない 取引で
心がちょっと 動いた日
奇跡はなくても 確かに
国は今日も 息をした
強さじゃなくて
優しさでもなくて
一緒にいることが
答えだった
さあ、出かけよう——
パレードは続いてく
音は外れてもいい
順番なんてなくていい
失敗は 明日のネタ
不安は 誰かの肩
今日もこの国は
だいたい平和です
さあ、出かけよう——
パレードが始まるよ
奇跡がなくてもいい
君が歩いていればいい
完璧じゃないけど
見捨てない それだけで
今日もこの国は
だいたい平和です
また転んで
また笑って
それでも前へ
さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。
歌が終わっても、
国は終わらない。
拍手が止んでも、
明日は必ずやって来る。
きっとまた誰かが転び、
きっとまた誰かが怒り、
きっとまた誰かが胃を痛める。
それでも。
誰かが隣にいて、
誰かが止めて、
誰かが笑う。
それだけで、
この国は今日も回っていく。
完璧じゃない。
だが、見捨てない。
この歌が流れる限り、
この物語は「終わり」ではなく
**「続いている途中」**だ。
さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。




