その結果
この国は、
奇跡で救われた国ではない。
転び、揉め、食べ過ぎ、
ときどき胃薬を消費しながら、
それでも前へ進んできた国だ。
女神は完璧ではなく、
王女は優しさを前に出さず、
商人は常に限界だった。
それでも彼らは、
同じ場所に立ち続けた。
これは、
奇跡を使わない神と、
神に依存しない人々が、
なぜかうまくやってしまった話である。
⸻
その結果
――国が、なぜか安定した理由
巡業が終わって、
国はすぐには変わらなかった。
だが、静かに、確実に変わっていった。
まず、民が変わった。
神を見ても、跪かなくなった。
代わりに、声をかけるようになった。
「今日も大変そうだな」
「足元、気をつけなよ」
女神はもう、
遠くで祈る存在ではなく、
同じ地面を歩く存在になった。
⸻
次に、王女が変わった。
蜂須賀・レオニア・ヴェスパリアは、
依然として怖かった。
判断は早く、言葉は少なく、
間違えれば容赦なく切り捨てる。
だが。
「話せば、分かる」
「話す前に、聞いてくれる」
そう認識された瞬間、
王女は「恐怖」から「信頼」に変わった。
怖いが、逃げなくていい存在。
それは、国にとって大きかった。
⸻
そして、女神が変わった。
うるさい。
よく転ぶ。
場の空気を壊す。
だが――
逃げなかった。
誰かが怒れば、正面から受け止め、
誰かが泣けば、横に座り、
誰かが倒れそうになれば、手を伸ばした。
奇跡は起こさない。
だが、現場から消えない。
それは、奇跡よりも厄介で、
奇跡よりも頼れる在り方だった。
⸻
公式記録は、冷静だった。
地獄の晩餐会ツアーは
財政赤字・反乱・宗教暴走を
なぜか同時に抑制した
前例のない政策である
理由は書かれていない。
分析も結論もない。
ただ、
「事実」として残された。
⸻
王城の壁には、いつの間にか
新しい注意書きが増えていた。
※ 地獄の晩餐会は非常時のみ実施
※ ただし非常時の定義は曖昧
※ 商人夫の胃薬を常備すること
それを見上げて、
商人夫は深く、深くため息をついた。
「……ワイな」
「ほんまに、生きとるだけで評価されとる気がする」
ミズハが、遠慮なく背中を叩く。
「それが一番たい!」
「生き残った商人は、一流たい!」
レオニアは、短く頷いた。
「……耐えた者から、国は回る」
それは慰めではなく、
事実の確認だった。
⸻
アステリアは、その光景を見て笑った。
「じゃあ次は――」
三人が、同時に口を開く。
「「「やらかさない方向で!」」」
沈黙。
誰もが分かっていた。
――無理だ。
この国は、
完璧な判断より、
やらかした後の対処で回っている。
だが。
今日も、誰も逃げていない。
今日も、誰かが支えている。
だから、国は回っている。
静かに、騒がしく、
だいたい平和に。
さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。
この国の日常は、
まだ続く…。
地獄の晩餐会は終わった。
だが、
誰かの笑い声は残り、
誰かの記憶に、温度だけが残った。
国は相変わらず不完全で、
問題は減っても、消えてはいない。
それでも。
逃げない王がいて、
止める王女がいて、
うるさい女神がいて、
耐え続ける商人がいる。
それだけで、
国は今日も回っている。
完璧じゃない。
だが、見捨てない。
今日もこの国は、
だいたい平和です。




