第二都市・山岳都市グラード
ドジっ子女神は〇〇
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第二都市・山岳都市グラード
――金が通じない場所
問題が起きたのは、ここだった。
山岳都市グラード。
切り立った岩山に囲まれ、細い道をいくつも登った先にある都市。
商人夫は到着した瞬間、嫌な予感がしていた。
「……あかん」
「この街、金の匂いがせぇへん」
実際、広場に集まる人々の腰袋は軽い。
代わりに、肩には獣の皮。
背中には干し肉。
目は鋭い。
会計係が青ざめて報告する。
「……晩餐会予算、足りません」
「輸送費が予想以上で……」
「金が足らん……」
商人夫は頭を抱えた。
その瞬間、ミズハが元気よく手を挙げる。
「大丈夫たい!」
嫌な予感が、確信に変わる。
「物々交換でいこ!」
「やめて!!」
商人夫が即座に叫ぶ。
「それ、一番商人の心折れるやつや!」
だが、ミズハはもう前を向いている。
「ここは山の街たい」
「金より、腹に入るもんと生き延びるもんが価値たい!」
レオニアが一歩前に出た。
「……交渉は私がやる」
その一言で、空気が変わる。
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山岳都市の長老たちは、円卓の向こうで腕を組んでいた。
「王女よ」
「我らは金に興味はない」
「山羊が冬を越せるか」
「肉がどれだけ持つか」
「それだけだ」
レオニアは頷く。
「……理解している」
彼女は机に地図を広げた。
「この街の冬は長い」
「雪は三度、道を塞ぐ」
「だが」
指を一つ動かす。
「晩餐会が来れば、人が集まる」
「人が集まれば、交易路が生きる」
ミズハが横で頷きながら口を挟む。
「人が集まると、噂も回るたい!」
商人夫は、口を挟めず黙って見ていた。
(……これ、ワイの仕事やったはずやねんけど)
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交渉の結果。
・山羊二十頭
・干し肉百束
・干し果実と薬草の山
そして――
「……これは?」
商人夫が震える声で聞く。
長老が静かに答える。
「先祖代々、祝いの日にだけ開ける酒だ」
箱の中には、埃を被った一本のワイン。
「伝説級やん……」
商人夫は呆然とした。
「これ、売ったら国一つ買えますよ……」
ミズハは目を輝かせる。
「飲も!」
「飲むな!!」
商人夫が悲鳴を上げる。
レオニアは即断した。
「……これは最後に開ける」
「全員が無事だった時だけや」
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晩餐会当日。
肉は豪快に焼かれ、
山羊は乳を出し、
干し肉は惜しみなく振る舞われた。
山岳都市の人々は、最初は警戒していたが、
次第に笑い、語り、歌い出す。
アステリアは焚き火のそばで、子供たちに囲まれていた。
「女神さま、ほんとに転ぶんだね」
「うん、よく言われる」
誰も跪かない。
だが、誰も疑っていない。
商人夫は火の前で座り込み、呟いた。
「……金、使ってへんのに」
「街が、めっちゃ回っとる……」
レオニアは遠くを見ながら言う。
「……価値は、場所で変わる」
ミズハは酒を片手に笑う。
「神はそれを混ぜる役たい!」
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晩餐会の終わり。
長老が、伝説級ワインを開けた。
「無事だった」
「それだけで、祝う価値がある」
全員で一口ずつ飲む。
静かで、深く、温かい味だった。
商人夫は、目を閉じて言った。
「……ワイ」
「商人としての存在意義、今めっちゃ揺らいどる」
アステリアは笑った。
「でも」
「いなかったら、ここ来れてないよ」
商人夫は、少しだけ救われた顔をした。
こうして――
金が通じない街で、国はまた一つ、仲間を増やした。
締めは、いつものあの言葉。
「さあ、出かけよう——
パレードが、始まるよ。」




