第一都市・港町サルヴァ
「今日もこの国は、だいたい平和です。」
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第一都市・港町サルヴァ
――地獄の晩餐会、最初の犠牲者(主に胃)
開始十分で、地獄が開いた。
「さぁさぁ集まりんしゃい!!」
港に面した広場。
仮設の壇上に立ったミズハが、両腕を大きく広げて叫ぶ。
「今日は飲んで食って、語り合う日たい!」
「文句は後!腹いっぱいが先ばい!」
その瞬間、
港町サルヴァの空気が一段階、荒れた。
漁師、船乗り、商人、港湾労働者。
日頃から声がでかい連中が、一斉に反応する。
「酒は!?」
「魚はどこだ!」
「なんで皿が足りねぇ!」
それを見て、商人夫は青ざめた。
「……あかん」
「この街、元から地獄適性高すぎる」
その横で、蜂須賀・レオニア・ヴェスパリアが一歩前に出る。
「……料理は順番に出せ」
静かな声だったが、よく通った。
「争奪戦は禁止」
「刺すのも禁止」
港町が、一瞬だけ静まり返る。
次の瞬間。
「刺す前提やめて!?」
商人夫が全力でツッコんだ。
「なんでこの街、注意事項に“刺す”が含まれとんねん!」
ミズハはケラケラ笑う。
「港町やけん!」
「包丁の距離が近いとこたい!」
レオニアは真顔だ。
「……過去の統計や」
商人夫は、もう泣きそうだった。
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料理が運ばれ始める。
・大鍋で煮込まれた魚介スープ
・豪快に焼かれた港の魚
・樽ごと運ばれる酒
完全に博多式の勢いだった。
「ほらほら止まらんばい!」
ミズハが指示を飛ばす。
「空いたら即補充!考えるな、運べ!」
それを、蜂須賀式の統制が必死に抑える。
「列を作れ」
「皿は一人一枚」
「割り込み禁止」
兵士たちは目を見開いていた。
「……王女様、指示が早すぎます」
「女神様、追加が多すぎます」
アステリアはというと。
配膳を手伝おうとして、
足を取られ――
「わっ――」
見事に転んだ。
スープが宙を舞う。
「女神様ーーーっ!!」
だが奇跡は使われない。
代わりに、
周囲の漁師たちが反射的に動いた。
「危ねぇ!」
「皿押さえろ!」
「女神さん、頭打ってねぇか!?」
アステリアは床に座ったまま、きょとんとする。
「……あれ?」
「私、助けられた?」
ミズハが笑う。
「そりゃそうたい」
「今日は“助け合う日”やけん」
レオニアも、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。
「……想定内や」
商人夫はそれを見て、静かに息を吐いた。
「……あぁ」
「この街、もう大丈夫や」
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二時間後。
争いなし。
死人なし。
胃袋だけが限界。
港町サルヴァは、
奇妙な満腹感と笑い声に包まれていた。
港町の長老が、震える手で杯を掲げる。
「……正直に言おう」
「奇跡より怖かった」
一同が固まる。
だが、長老は続けた。
「しかしな」
「奇跡より楽しかった」
その言葉に、
広場から拍手が湧き上がる。
ミズハは胸を張る。
「ほら見んしゃい!」
レオニアは腕を組み、静かに頷く。
「……初回としては、及第点やな」
商人夫は、椅子に崩れ落ちた。
「……まだ一都市目やぞ」
「ワイ、生きて帰れるんか……」
アステリアは空を見上げて、微笑んだ。
「大丈夫」
「この国、思ったより強いよ」
こうして――
地獄の晩餐会ツアーは、正式に“成功”と判定された。
なお、
商人夫の胃薬消費量は、
この日を境に記録更新を続けることになる。
「さあ、出かけよう!
ドタバタ・パレードの、はじまりはじまり!」




