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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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第三章 借金ゼロ、資金もゼロ

国を救う物語は、

いつも剣や魔法から始まる。


だが、この国には

振るう剣も、唱える魔法も、

そして――金すらなかった。


目の前にあるのは、

壊れた街と、疲れ切った人々。


それでも彼は立ち止まらない。

怒りも、嘆きも、言い訳も選ばず、

ただ「責任」を引き受けることを選んだ。


これは、

英雄ではない王子が、

“国の現実”と向き合う章である。



第三章 借金ゼロ、資金もゼロ


その言葉に、女神は少しだけ黙った。


風が吹き抜けた。

乾ききった空気が、街の埃を巻き上げる。

レオンは周囲を見渡し、ゆっくりと歩き出した。


崩れた家屋の前で、老人が座り込んでいる。

空の籠を抱えたまま、動かない。

通りの奥では、子どもが二人、何かを探すように地面を掘っていた。


「……人は、住んでいるんですね」


「はい」


アステリアの声は、珍しく小さかった。


「完全に滅びてはいません。

だからこそ……危険なんです」


「希望があるから、絶望も深い」


王子はそう言って、瓦礫に触れた。

石は冷たく、脆い。


「この国は、いつからこうなった?」


「詳しい記録は残ってません。

戦争、疫病、重税……だいたい全部です」


「全部、ですか」


レオンは小さく息を吐いた。


「なら、最初にやることは決まっています」


アステリアは首を傾げる。


「いきなり改革ですか?

財政?軍備?」


「違います」


王子は振り返った。


「まず、民を数えます」


「……数える?」


「何人いるのか。

何ができるのか。

何を失っているのか」


王子は拳を開いた。


「数字がなければ、国は作れない」


二人が街を歩くうち、視線が集まり始めた。

警戒と、不信。

そして、わずかな期待。


「王子様っぽくないですね」


「そうですか」


「もっと“助けてやる”って感じかと」


レオンは、少しだけ微笑んだ。


「私は、助ける立場ではありません」


「……?」


「この国を作るのは、民です。

私は、その責任を引き受けるだけ」


その言葉に、アステリアは何も言えなかった。


やがて、壊れた広場に辿り着く。

かつては市場だった場所だろう。

今は瓦礫と雑草だけが残っている。


「……ここを、最初の拠点にします」


「え、ここを?」


「人が集まれる場所です」


レオンは声を張った。


「誰か、話を聞いてくれる人はいませんか!」


ざわめきが広がる。

だが、誰も前に出ない。


「……無理ですよ」


アステリアが小声で言う。


「信用ゼロです」


「分かっています」


王子は一歩、前に出た。


「だから、何も約束しません」


その言葉に、民がざわつく。


「金も、食料も、今は出せません」


怒りの声が上がりかける。


「だが――」


レオンは頭を下げた。


「私は、逃げません」


静寂。


「この国で生き、

この国と一緒に、失敗します」


沈黙が続く。

長く、重い沈黙。


やがて、一人の老人が口を開いた。


「……王様か?」


「いいえ」


「なら、何者だ」


レオンは顔を上げ、答えた。


「責任者です」


その言葉に、アステリアは息を呑んだ。


「……それで十分だ」


老人は背を向けた。

だが、去り際に言った。


「明日、また来る」


その背中を見送りながら、レオンは深く息を吐いた。


「……第一歩ですね」


アステリアが言う。


「はい」


王子は頷いた。


「資金ゼロ。

信用ゼロ。

それでも、始められます」


空を見上げる。


「国は、人から始まる」


夕焼けが、荒れ果てた街を染めていた。


こうして、

借金も資金もない国の再建は、

“何もない場所”から、静かに始まった。

資金がないから、何もできない。

信用がないから、誰も従わない。


それは、正しい。

だが、それで終わらせないと決めた瞬間、

物語は始まる。


彼が差し出したのは、

救いの手ではなく、

逃げないという覚悟だった。


そして――

人は奇跡よりも、

「共に失敗する覚悟」に

心を動かされることがある。

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