表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/51

博多弁女神加入〜世界の再安定

世界が壊れるとき、

それは大きな音を立てるとは限らない。


小さな疲労。

小さな苛立ち。

小さな「もう無理」という言葉。


神であっても、それは同じだ。


この物語は、

世界を救う英雄の話ではない。


世界を一人で抱え込まなかった者たちの話である。


喧嘩し、ぶつかり、

それでも同じ場所に立ち続けた者たちの――

少し騒がしくて、少し優しい記録だ。



ドジっ子女神との大喧嘩


――この世界は、どうなる?


その喧嘩は、雷鳴も地震も伴わなかった。


むしろ――

静かすぎるほど、静かだった。


玉座の間。

夜更け。

書類の山。


アステリアは机に突っ伏し、呻いていた。


「……無理……今日だけで五件……」


「その五件が“国家案件”です」

秘書は容赦がない。


「分かってるけど!でもさ!」


アステリアは顔を上げる。


「なんで全部“私が決断しなきゃいけない”の!?」


その瞬間。


腕を組んで立っていた蜂須賀・レオニア・ヴェスパリアが、ゆっくり口を開いた。


「王だからだ」


「……っ」


「奇跡を捨てた時点で」

「責任も、平等になった」


アステリアは、思わず立ち上がった。


「それは分かってるよ!」


「でもね!私は神で!」

「人の寿命も、感情も、全部一気に背負う設計じゃないの!」


声が震える。


「そもそも、私が来なければ――」


「逃げるな」


短い一言。


王女の目は、鋭かった。


「“来なければ”の話をするな」

「来たあと、立ち続けているのは誰だ」


沈黙。


アステリアの拳が、震える。


「……じゃあ聞くけど」


「私が間違えたら?」

「この国、壊れたら?」


「その時、誰が責任取るの?」


蜂須賀は、迷わなかった。


「全員だ」


「王も」

「神も」

「民も」


「それが、この国のルールだ」


アステリアは、何も言えなくなった。


しばらくして――

ぽつりと呟く。


「……やっぱり、私向いてない」


その瞬間。


空間が、割れた。


「ちょっと待たんね!!!」


聞き慣れない、強烈な声。


「何この空気!?重っ!!」


光の裂け目から、

一柱の女神が飛び出してきた。


腰に手。

目は釣り気味。

表情は完全に“キレ気味のお姉さん”。


「はいはいはい!」

「神界登録番号・西方第七系統!」


「博多担当、女神ミズハたい!」


全員が固まる。


「……は、博多?」


アステリアが呆然と聞く。


「そうたい!」

「あんたが“責任重すぎ”とか言い出したけんね!」


ミズハはズカズカ歩き、机を叩く。


「神はね!」

「一人で抱え込むもんやなか!」


「喧嘩するくらいなら!」

「ちゃんと相談せんね!」


「……登録、聞いてない」


秘書が小声で言う。


「今したと!」


ミズハは胸を張る。


「非常事態につき!」

「応援女神、臨時登録完了!」


アステリアは、ぽかんとしたまま。


「え、えっと……」


「泣く前に言いんしゃい」

ミズハはにっと笑う。


「世界はね」

「一柱で回すもんやなか」


「壊れそうなら」

「人数増やせばよかろうもん!」


沈黙が、少しだけ溶けた。


蜂須賀が、腕を組み直す。


「……もう一柱、増えるのか」


「文句あると?」

ミズハが睨む。


「ない」

「だが条件がある」


「ほう?」


「余計なことはするな」

「致命的なことだけ止めろ」


ミズハは一瞬考え――

大笑いした。


「それ、博多的に言うと」


「めっちゃ楽やん!!!」


その場に、

久しぶりの笑いが戻った。


アステリアは、肩の力を抜く。


「……喧嘩、途中だったんだけど」


「続きは明日たい」

ミズハが言う。


「今日はもう」

「全員、疲れとる」


世界は、終わらなかった。


壊れもしなかった。


ただ――

女神が一柱、増えただけだ。


しかも、

やたら声が大きくて、

距離感が近くて、

博多弁だった。


アステリアは、天井を見上げて呟く。


「……この世界、大丈夫かな」


ミズハが即答する。


「大丈夫たい!」


「大丈夫じゃなかったら」

「また増やせばよか!」


世界は、今日も

完璧じゃないまま――

賑やかに、続いていく。



――世界は、予想外の形で回り出す


翌朝。


王城は、やけに騒がしかった。


「ちょ、ちょっと待って!」

「廊下は走らないでって言ったよね!?」


アステリアの声が響く。


「走っとらん!」

「早歩きたい!」


博多弁女神ミズハは、書類の束を抱えたまま廊下を突き進んでいた。


「これ全部、今日中に判断せないかん案件やろ!?」

「後回しにしたら燃えるやつ!」


「燃えるって……」

秘書が顔を引きつらせる。


「比喩たい」

「たぶん」


「たぶん!?」


レオニアは腕を組んだまま、冷静に言った。


「……女神が増えた結果」

「仕事の速度が二倍になり、被害範囲も二倍になったな」


「効率化たい!」

ミズハが即答する。


「人手不足は神手で補う時代やけん!」


アステリアは頭を抱えた。


「私が目指してたの、こういうのじゃ……」


その時。


鐘が鳴る。


緊急会議。


議題は一つ――

「神同士の意見不一致による、世界方針のズレ」


会議室。


アステリアが言う。


「この村への支援は、慎重に段階的に――」


「いやいや!」

ミズハが遮る。


「まず腹いっぱい食わせんと、考える頭も動かんたい!」


「奇跡は使わないって決めたでしょ!」


「奇跡やなか!」

「物流の再編成たい!」


「それを神がやるのはグレー!」


「グレーは黒になる前に止めたらよか!」


二人の視線が、火花を散らす。


レオニアが、低く言った。


「……喧嘩はいい」

「だが結論を出せ」


沈黙。


アステリアは、深呼吸をする。


「……ミズハ」

「あなたは、“今を救う”のが得意」


「私は、“先を壊さない”のが役目」


ミズハは少し驚き、

それから、にっと笑った。


「役割分担たい」


「喧嘩しとるようで」

「実は、噛み合っとるやん」


秘書が小声で呟く。


「……神界、こんな感じで回ってたんですか?」


ミズハとアステリアが同時に首を振る。


「「いや、今までよりカオス」」


だが――

その日の夕方。


支援を受けた村では、

誰かが言った。


「神様が増えたらしい」


「でも、前より話を聞いてくれる」


「怒るし、揉めるし、うるさいけどな」


王城の玉座裏。


例の刻文の横に、

いつの間にか追記がされていた。


※ 蜂須賀案件は別枠処理

※ 博多案件は勢い優先(要監視)


アステリアはそれを見て、苦笑する。


「……世界、どうなるんだろ」


ミズハが肩を組んでくる。


「なるようにしか、ならんたい」


「けどね」


「一人で背負うより」

「揉めながら進む方が、案外長持ちするっちゃけん」


レオニアは、黙ってその背を見ていた。


この国は――

神が一柱増えただけで、

少し騒がしくなり、

少し現実的になり、

そして少しだけ、折れにくくなった。


世界はまだ、不安定だ。


だが。


崩れる前に、

止める声が増えた。


それだけで――

この世界は、しばらく大丈夫だった。

神が増えたからといって、

世界が良くなるとは限らない。


意見は割れ、

声は大きくなり、

会議は長くなる。


だが――

壊れる前に止める手が増える。


それだけで、

世界はずいぶん長持ちする。


ドジっ子女神アステリアは、

もう一人で悩まなくなった。


博多弁の女神ミズハは、

勢いだけで突っ走らなくなった(少しだけ)。


蜂須賀・レオニア・ヴェスパリアは、

相変わらず腕を組んでいる。


完璧ではない。


だが、

誰も逃げていない。


この世界は今日も、

喧嘩しながら、

なんとか回っている。


それでいい。


――たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ