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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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傲慢商人、条件を一つだけ下げる

言葉は、刃になる。


冗談のつもりでも、

軽口のつもりでも、

受け取る側の尊厳を踏みにじれば、

それは立派な暴力だ。


この王国には、

数字で世界を見る者と、

感情で世界を守る者がいる。


その衝突は、

ときに激しく、

ときに滑稽だ。


だが――

誰かが本気で怒った時、

その国が何を大切にしているかは、

はっきりと見える。


これは、

奇跡よりも大きな怒りが、

一つの線を引いた日の物語である。



傲慢商人、条件を一つだけ下げる


翌朝。


王城の会議室に、

またしても鴻池は現れた。


今度は――

派手な指輪を一つ外している。


それだけで、

秘書は「今日は本気だ」と察した。


「朝から失礼しますわ」

鴻池は軽く手を振る。


「昨日の続き、ええですか」


国王は頷いた。


「聞こう」


鴻池は椅子に座らず、

机の前に立ったまま言った。


「条件、一個だけ下げます」


空気が動く。


「利益七割――」

彼は指を折る。


「五割でええ」


財務官が息を呑む。


秘書は即座に反応する。


「……なぜ?」


鴻池は肩をすくめた。


「気に入らんからや」


「は?」


「この国、

金の話すると嫌そうな顔する人間が多すぎる」


アステリアが小声で言う。


「それ普通だよ?」


「せやけどな」

鴻池は続ける。


「それでも逃げへん」


国王を見る。


「普通はな、

もっと媚びる。

もっと売る」


視線がお嬢様に移る。


「でもこの国は、

売る時に文句言う」


お嬢様は胸を張った。


「当然ですわ」


「せやろ?」

鴻池は笑った。


「せやから腹立つ。

せやから――

面白い」


秘書は慎重に聞く。


「……つまり?」


「完全に買うのはやめますわ」


一同、沈黙。


「代わりに――」


鴻池は、指を一本立てた。


「試験運用や」


「試験?」


「一年」


即答。


「一年だけ、

わての資本と流通を入れる」


国王は黙っている。


「その間、

国の決定権はそっち」


「だが?」

秘書が促す。


「赤字が止まらんかったら――」


鴻池は、にやりと笑う。


「その時は、

潔う“買収交渉”に戻す」


お嬢様が即座に言った。


「条件を付けますわ」


「ほう?」


「美的決定権は、

絶対に譲りません」


鴻池は吹き出した。


「そこかいな!!」


アステリアが拍手する。


「大事!」


ノクスは真顔だ。


「……意外と重要だ」


鴻池は、しばらく笑った後、

真剣な目で言った。


「ええで」


全員が固まる。


「ただし」


「?」


「民を安売りしたら、即撤退や」


国王の目が、少しだけ見開かれる。


「……それは」


「商人の流儀や」


鴻池は胸を叩く。


「人が壊れた商売は、

あとで必ず潰れる」


沈黙。


やがて、国王は立ち上がった。


「一年だな」


「一年や」


二人は、手を伸ばす。


握手。


その瞬間。


アステリアが転んだ。


「わっ!」


全員がそちらを見る。


「……ごめん、緊張して」


鴻池は苦笑した。


「やっぱ変な国やなぁ」


だが、その声は――

どこか、楽しそうだった。


こうして王国は、

金に試される一年へと踏み出した。


それは救いでも、

破滅でもない。


ただ――

逃げなかった結果だった。


王城の外では、

いつも通りの朝が始まっている。


誰も知らない。


この一年が、

王国の形を決めることを…。




ハーレムでっせ、女神はブチ切れた


その騒動は、

王城の中庭から始まった。


「いやぁ~、王城いうんはええなぁ」

鴻池は両手を広げた。


「空気が違う。

人もええ。

……そんで」


ちらり、と左右を見る。


そこには――

侍女、書記官、若手官僚、護衛の女性兵士。


偶然だ。

完全に偶然。


だが配置が悪かった。


「女の人多い国やなぁ!」


その一言で、

空気が死んだ。


「……は?」


背後から、

極低音が響く。


アステリアだった。


笑顔。

だが、目が笑っていない。


「いま、なんて?」


鴻池は気づかない。


「いやぁ、これが王国の強みや思て」

親指を立てる。


「多様性!活気!

つまり――」


満面の笑み。


「ハーレムでっせ」


――次の瞬間。


「ふざけるなあああああ!!」


ドン!!


地面が揺れた。


神力?

いいや、感情だ。


アステリアが前に出る。


「この国は!!

人を!!

数で見る場所じゃない!!」


侍女たちが一斉に距離を取る。


「誰が誰を選ぶとか!

誰が囲われるとか!

そういう目で見るな!!」


鴻池、初めて後ずさる。


「え、ちょ、冗談やんか……」


「冗談で済むなら、

女神やってない!!」


ノクスが小声で言う。


「……完全に地雷踏んだな」


国王は額を押さえる。


「鴻池殿……

それは、言ってはいけない」


秘書は追撃した。


「三重にいけません」


アステリアは腕をぶんぶん振る。


「この国はね!

一人一人が主役!!

飾りじゃない!!

資産でもない!!

コレクションでもない!!」


鴻池は、ようやく理解した。


「あ……」

声のトーンが落ちる。


「……すまん」


深く、頭を下げた。


場が静まる。


「わて、商人や」

鴻池は言う。


「数字で見る癖が、染みついとる」


顔を上げる。


「せやけど……

人を怒らせてまで得る利益は、安い」


アステリアは、じっと見つめ――


「……反省してる?」


「してる」


即答。


「心から?」


「胃が痛いレベルで」


女神は腕を組み、

しばらく唸ったあと――


「……今回だけ、許す」


全員が安堵する。


「ただし!!」


ビシッと指を突きつける。


「次に同じこと言ったら――

商談、全部私が横で口出す」


鴻池の顔色が変わった。


「それは……」


「地獄だよ?」

ノクスが即答。


鴻池は、真顔で頷いた。


「もう言わへん」


侍女の一人が、ぽつり。


「……でも」


「?」


「怒ってくれて、ありがとうございました」


アステリアは一瞬固まり――

照れた。


「べ、別に!

女神だし!」


鴻池は、その光景を見て小さく笑った。


「……やっぱり」


「?」


「ええ国やな」


その言葉に、

今度は誰も怒らなかった。


王国は今日も、

危ない橋を一本、

怒りで折りながら渡った。

女神は怒った。


雷も、光も使わず、

ただ感情だけで。


それは、

神の力が弱まったからではない。

人の側に立ったからだ。


商人は学んだ。

国は買えても、

尊厳は買えない。


国王と秘書は再確認した。

この国の最大の防衛線は、

城壁でも軍でもない。


怒ってくれる存在がいること。


そしてアステリアは、

また一つ、

神としてではなく

仲間として信頼を積み上げた。


王国は今日も不完全だ。

だが――

間違えた時に止める声がある。


それだけで、

滅びる確率は、

少しだけ下がる。

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