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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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33/43

関西人、傲慢商人、堂々登場

商人は、敵ではない。


彼らは剣を持たず、

城を攻めず、

ただ静かに帳簿を開く。


だが、

一度数字に組み込まれた国は、

簡単には抜け出せない。


この章で現れた商人は、

善人でも、悪人でもない。

ただ――現実的だ。


理想を持つ国と、

利益を追う商人。


どちらが正しいかではなく、

どちらが折れるか。


その駆け引きが、

今、静かに始まろうとしている。



関西人、傲慢商人、堂々登場


その男は、

王城に入るなり――笑っていた。


「いやぁ~、ええ城やねぇ!

さすが“まだ潰れてへん国”や」


第一声がそれだった。


会議室の空気が、

一瞬で凍る。


秘書の眉が、ぴくりと動いた。


「……お名前と御用件を」


「おっと失礼」

男は大袈裟に一礼する。


「わて、**浪速商会代表・鴻池こうのいけ**言いますわ」


関西訛り。

腹の底が見えない笑顔。

指には金の指輪が三つ。


国王は静かに言った。


「……我が国に、何の用だ」


鴻池は肩をすくめる。


「単刀直入に言いますわ。

貸しに来たんです」


「金を、ですか」


「ちゃいます」

にやり。


「首を」


一同、沈黙。


アステリアが小声で聞く。


「え、今の比喩?」


ノクスが答える。


「比喩じゃない」


鴻池は机に帳簿を置いた。


「今の王国さんな、

資金も信用もギリギリや」


紙をめくる音が、やけに大きい。


「せやから、こう提案します」


彼は指を立てる。


「わての商会が、

流通、金融、兵站――

全部まとめて引き受けます」


秘書が即座に返す。


「つまり、国家の動脈を渡せと?」


「そうそう!話早いわ!」


鴻池は笑った。


「安心してください。

王様は王様のままでええ」


国王の目が細くなる。


「……代わりに?」


「利益の七割」


「多い」


「安いですわ」


鴻池は即答した。


「潰れる国を助けるんですさかい」


その瞬間。


「――失礼」


高いヒール音。


お嬢様が、ゆっくり前に出た。


「今、“潰れる”とおっしゃいました?」


鴻池は一瞬だけ、視線を奪われる。


「……お嬢さんは?」


「この国の“美的責任者”ですわ」


「なんやそれ」


「重要ですのよ?」


お嬢様は微笑む。


「商人さん。

あなた、交渉がお下手ですわ」


「は?」


鴻池の笑顔が、初めて歪んだ。


「傲慢と、正直は違いますの」


お嬢様は、机の帳簿を軽く叩く。


「“潰れる国”に、

そんな大きな投資をする理由――

欲が見えすぎですわ」


アステリアが心の中で拍手する。


(言った……)


秘書は胃を押さえる。


鴻池は鼻で笑った。


「欲のない商人なんか、

詐欺師だけや」


「結構ですわ」


お嬢様は一歩近づく。


「では、こちらも正直に」


一同、息を呑む。


「あなた――

この国を手に入れたいだけでしょう?」


静寂。


鴻池の目が、初めて冷える。


「……さすがやな」


笑顔が消えた。


「せや。

金やない。国や」


アステリアが小声で言う。


「うわ、ラスボス感」


ノクスが頷く。


「中ボスだな。関西人はしぶとい」


国王は、ゆっくり立ち上がった。


「……条件は聞いた」


視線を真っ直ぐ向ける。


「だが――

我が国は、首までは売らん」


鴻池は、しばらく国王を見つめ、

やがて笑った。


「ええ顔しますなぁ」


椅子から立つ。


「ほな今日は、

顔合わせだけにしときましょ」


扉へ向かいながら、振り返る。


「でも覚えといてください」


にやり。


「困った時に、

一番高うつくのは――

プライドですわ」


去り際の関西訛りが、

やけに重く残った。


秘書はその場に座り込む。


「……来ましたね」


国王は頷いた。


「ああ。

本物の厄介者が」


アステリアは首を傾げる。


「でもさ」


「?」


「悪い人じゃない気もする」


全員が同時に叫んだ。


「それが一番危険なんだ!!」


こうして――

王国に、

金と笑顔で首を取りに来る敵

が現れた。



秘書の胃、限界値更新。




傲慢商人、王国の台所を嗅ぎ回る


鴻池は、城に居座った。


「交渉は一回で終わるもんやない」

と、当然のように言い放ち、

来賓用の部屋を“自室”扱いし始めた。


「追い返していいですか」

秘書は真顔で言った。


「できるならもうしている」

国王は即答した。


問題は一つ。

彼は、すでに王国の数字を半分以上把握していた。


「財務帳簿、よう出来てますなぁ」

鴻池は台所――いや、会計室で言った。


「でもなぁ……

“人件費”が、やけに安い」


財務官が震える。


「兵も、職人も、役人も……

働き過ぎですわ」


アステリアが小声で聞く。


「それって褒めてる?」


ノクスは首を振った。


「値切る前の観察だ」


鴻池は指で机を叩く。


「国ってな、

数字より“疲労”で潰れるんや」


一同、黙る。


図星だった。


「せやから言うてるんですわ」


鴻池は、さらりと言う。


「わてが入れば、

回るようにはなる」


「代わりに?」

秘書が睨む。


「自由に口出し」


即答。


「それは主権侵害だ」

国王の声が低くなる。


「主権は残しますやん」

鴻池は笑う。


「ただし――

“決断”だけは、早うしてもらいます」


お嬢様が、静かに口を開いた。


「あなた、数字しか見てませんわね」


鴻池は振り返る。


「当たり前や。

商人やからな」


「では教えて差し上げます」


お嬢様は、窓の外を指す。


「この国の価値は、

まだ帳簿に載っていませんの」


「……ほう?」


「民ですわ」


鴻池は、鼻で笑いかけ――

止まった。


城の中庭。

兵士と職人が、何かを修繕している。


笑い声。


以前ならなかった光景。


「……」


鴻池は、無言でそれを見る。


アステリアがぼそっと言う。


「女神的に言うと、

今、信仰じゃなくて“信頼”が増えてる」


「値段つくんか?」

鴻池が聞く。


「長期なら」

ノクスが答えた。


沈黙。


鴻池は、初めて腕を組んだ。


「……厄介な国やな」


その夜。


鴻池は、城下を歩いた。


酒場。

露店。

修繕中の家。


「国が貧乏やのに、

目が死んでへん」


ぽつり。


宿に戻り、帳簿を広げる。


利益計算。

投資回収。


――合わない。


「……ほんま、嫌な国や」


それでも彼は、

ペンを止めなかった。


なぜなら――

この国は、金にならないのに、気になる。


それは商人にとって、

最も厄介な感情だった。


一方、王城。


秘書が国王に言う。


「……どうします?」


国王は答えた。


「利用される覚悟をするか、

利用する覚悟をするか――

そのどちらかだ」


アステリアは伸びをした。


「大丈夫。

ドジっ子女神がついてる!」


全員が即答した。


「それが一番不安だ!!」


だが――

不思議と、誰も笑っていた。


王国は、また一つ、

面倒な相手と向き合う段階に入ったのだから…。

剣を抜かず、

脅しもせず、

それでも国を追い詰める存在がいる。


それが、金だ。


傲慢商人・鴻池は、

王国を買おうとしている。


だが同時に、

彼自身もまた、

この国に値段をつけきれずにいる。


数字に合わないもの。

帳簿に載らないもの。


それこそが、

この王国がまだ生きている証だ。


国王は理解している。

拒絶だけでは守れない。

受け入れるだけでは失う。


だからこそ――

この交渉は、戦争より難しい。


次に削られるのは、

予算か、誇りか、

それとも商人自身の計算か。


物語は、

より静かに、

より現実的な刃を向け始めている。

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