表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/43

わたくしが正義ですけれど? ――超自己中心お嬢様とドジっ子女神、その間で胃を痛める国王と秘書

国家を動かすものは、

理性か、制度か、それとも武力か。


この王国の場合、

だいたい――気分である。


軍事とは本来、

最も理屈と緊張を要する分野だ。

一歩間違えば、人が死ぬ。


だからこそ、

ここに「理解していない者」が現れると、

事態は一気に混沌へと傾く。


だが混沌は、

必ずしも破壊だけを生むとは限らない。


この章では、

戦うための力が

「守るための形」に変わる瞬間が描かれる。


優雅で、滑稽で、

それでもどこか温かい――

そんな軍事演習の話である。

『わたくしが正義ですけれど?

――超自己中心お嬢様とドジっ子女神、その間で胃を痛める国王と秘書』



王都ルミナリアにおいて、

最も静かで、最も危険な部屋は――

玉座の間ではなく、応接室だった。


理由は一つ。


「つまりですね、国王様」


ふわりと香水の匂いを残しながら、

完璧な微笑みでそう言った少女がいた。


「この国の問題は、

 わたくしが満足していないことですの」


その名は、

セレスティーヌ・フォン・アルヴァリア。


王国最大の資産家にして、

自覚のない天災。


「……秘書長」


国王レオン三世は、

椅子の肘掛けをぎゅっと握った。


「はい、陛下」


秘書長ユリウスは、

すでに覚悟を決めた顔で答える。


「これは、

 どの案件でしょうか」


「全部ですわ」


セレスティーヌは即答した。


「税制も、治安も、外交も、

 なにより――」


ぱちん、と扇子を閉じる。


「この応接室の紅茶が

 昨日と同じ味なのが気に入りませんの」


「国家運営の話ではなくなっている!?」


国王の叫びを無視し、

その横で「えへへ……」と笑う存在がいた。


「で、でもですね!

 紅茶の味って大事だと思います!」


白い羽根を揺らし、

少しだけ浮いた姿勢で手を挙げる。


ドジっ子女神、アステリアである。


「だって、気分が上がると

 だいたい世界も回るので!」


「女神様、

 その理論は初耳です」


秘書長が静かに言う。


「えっ?

 神界では常識ですよ?」


「神界の常識を

 国家運営に持ち込まないでください」


セレスティーヌは、

そんな二人をじっと見つめてから、

満足そうにうなずいた。


「なるほど」


一同、嫌な予感しかしない。


「つまり――

 わたくしが楽しく過ごせば、

 国も良くなるということですわね?」


「違います」

「たぶん違います」

「絶対違います」


三方向から否定が飛ぶ。


だが、お嬢様は微笑んだままだ。


「では決定ですわ」


椅子から立ち上がり、

堂々と宣言する。


「わたくし、

 国政に参加いたします」


「なぜそうなる!?」


「だって退屈ですもの」


その瞬間、

国王は悟った。


(これは戦争だ)


武器はない。

敵意もない。

だが――理不尽だけは無限にある。


「女神様……」


国王は小声でアステリアに縋る。


「奇跡でどうにかできませんか」


「えっ、えっと……」


アステリアは指を折る。


「暴走を止める奇跡……

 持ってないです!」


「役に立たない!?」


「でも!」


彼女はぱっと笑った。


「ドジはしますけど、

 見てる分には楽しい人ですよ!」


「国家運営は

 見世物ではない!!」


秘書長ユリウスは、

静かにメモを取っていた。


《本日の教訓》

・お嬢様の退屈は、国家の危機

・女神は万能ではない

・胃薬は多めに確保すること


その日から。


王国は、

史上最も不可解で、

史上最も騒がしい時代へ突入する。


中心にいるのは、

自分が正義だと疑わないお嬢様と、

ドジだが善意しかない女神。


そして――

その間で、

今日も国王と秘書は、

静かに胃を押さえていた。


「……陛下」

「なんだ」

「明日は、

 “お嬢様主導の国家改革案”の会議です」

「……紅茶は?」

「三種類用意しました」

「生き延びられそうだな」


こうして今日も、

王国は――

なんとか回っている。


(だいたい、奇跡と理不尽のおかげで)




第二話


外交とは、気分と椅子の座り心地ですわ


翌日。

王城・外交会議室。


長机の上には、国境図、条約草案、各国の使節名簿。

そして――なぜか、ふかふかのクッションが一つ。


「ここ、ですわね」


セレスティーヌは迷いなく王の席に座った。


「ちょっと待ってください!?」

国王レオン三世が慌てて立ち上がる。


「そこは王の席で――」

「ええ、存じておりますわ」


足を組み、顎に手を当てる。


「ですから、わたくしが座っていますの」


「理屈が通っていない!!」


秘書長ユリウスは、無言で予備の胃薬を取り出した。


「本日の議題は、

 隣国バルディアとの通商再交渉です」


「ふむ」


セレスティーヌは書類を一瞥し、すぐに興味を失った。


「文字が多いですわ」

「外交文書です」

「却下ですわ」


「却下しないでください!」


その時、

ふわっと天井から降りてくる影。


「おはようございまーす!」


アステリアだった。

今日はなぜか、眼鏡をかけている。


「知的アピールです!」

「不要です!」


隣国の使節団が入室する。


厳格そうな大使が、深々と礼をした。


「我が国は、

 関税の引き下げを――」


「待ってくださいな」


セレスティーヌが、指を一本立てる。


「あなた、

 椅子が硬すぎませんこと?」


「……は?」

「外交において、

 座り心地は誠意の現れですわ」


場が凍る。


「つまり、

 この椅子のままでは、

 わたくし、譲歩する気になれませんの」


国王は天を仰いだ。


(終わった……)


秘書長は即座に動いた。


「クッションを!

 最高級のを三つ!」


侍女が走る。


使節は困惑している。


「……あの、通商条件の話を」

「ええ、ええ」


セレスティーヌはにっこり笑った。


「ですから、

 まず“快適”になってからですわね」


その瞬間。


「――それは、違います」


アステリアが、珍しく低い声を出した。


全員が振り向く。


「え、女神様?」


彼女は、ゆっくりと床に降り立つ。


「外交は、

 座り心地で決めるものじゃありません」


「まあ」


セレスティーヌは、目を細めた。


「女神様が、

 わたくしに意見するの?」


「します」


はっきりと。


「だって、

 その人たちの国には、

 その椅子で何時間も働く人がいる」


沈黙。


「その人たちの背中の痛みは、

 交渉材料じゃない」


国王と秘書は、息を呑んだ。


(真顔の女神……!?)


セレスティーヌは、しばらく黙っていたが――

ふっと、笑った。


「……なるほど」


ゆっくり立ち上がる。


「つまり、

 わたくしが不快なのではなく」


使節を見る。


「彼らが耐えている、

 ということですのね」


そして、扇子を閉じる。


「なら、

 まず全員分、椅子を替えましょう」


「え?」

「は?」


「交渉は、

 同じ高さ、同じ座り心地で行うものですわ」


秘書長は、そっとメモした。


《本日の教訓》

・お嬢様は理屈より感覚

・だが、納得すると極端

・女神の真顔は最終兵器


数時間後。


通商交渉は、

過去最高に円滑に進んでいた。


条件は互角。

双方、納得。


使節が去った後。


「……疲れました」


国王は机に突っ伏した。


「でも、結果は悪くないです」

秘書長が言う。


アステリアは、ほっと息をつく。


「よかった……」


セレスティーヌは窓辺で外を見ていた。


「女神様」

「は、はい!」


「あなた、

 意外と面白いですわね」


「えっ」


「気に入りましたわ」


国王と秘書が同時に震えた。


(それは一番危険なやつだ……)


こうして。


超自己中心お嬢様、

ドジっ子女神、

胃を削る国王と秘書による――


国家運営という名の綱渡りは、

今日も無事(?)に続いていく。


まだ、平和は遠い。




第三話


軍事演習とは、ピクニックではありません


王都郊外・演習場。


整然と並ぶ兵士たち。

風に翻る軍旗。

緊張感の張り詰めた空気。


……その中央に。


「まあ!

 見晴らしがよろしくてよ!」


日傘を差したセレスティーヌがいた。


「ここ、

 お弁当を広げるのに最適ですわね」


「違います!!」


国王レオン三世の叫びが、

演習場に虚しく響く。


「ここは軍事演習場であって、

 観光地ではありません!」


「ですから観に来たのですわ」


きっぱり。


「兵士の皆様が、

 どれほど格好よく並べるか」


秘書長ユリウスは、

すでに青白い顔で資料を抱えていた。


「陛下……

 この方を止める手段は……」

「ない」


即答だった。


「では……

 私が倒れた場合の指示書を……」

「縁起でもないことを言うな」


アステリアは、

空中でふよふよしながら様子を見ている。


「えっと……

 軍事演習って、

 威圧とか、抑止とか……ですよね?」


「はい、女神様」

副官が丁寧に答える。


「じゃあ、

 見せ方、大事ですよね?」


「……はい?」


嫌な予感が、

一斉に広がる。


「つまりですね!」


アステリアが、

手を叩いて言った。


「怖いだけだと、

 民の人、引いちゃうと思うんです!」


「女神様……?」

「なので!」


彼女は指を指す。


「“守ってくれる感”を

 前面に出しましょう!」


「どうやって!?」


「えっと……」


少し考える。


「隊列をハート型に!」


「無理です!!」


兵士たちが一斉に固まる。


「……ハート型?」


セレスティーヌが、

興味深そうに目を輝かせた。


「それ、可愛いですわね」


(終わった……)


秘書長が、

心の中で静かに葬式をあげる。


「では決まりですわ!」


セレスティーヌは楽しそうに宣言した。


「本日の演習テーマは――」


扇子を掲げる。


「『守護と優雅』」


「テーマ制!?」


国王が頭を抱える。


しかし――

意外なことが起きた。


「……隊列、組め」


現場指揮官が、

深くため息をつきながら命じる。


「え?」

「どうせなら、

 全力でやる」


兵士たちが動く。


無骨な鎧が、

少しずつ形を変え――


本当に、

巨大なハート型陣形が完成した。


観覧席の民が、

ざわめく。


「……なんだ、あれ?」

「でも、

 ちょっと安心するな」

「守ってくれそう」


アステリアの目が、

きらっと光った。


「……ほら!」


セレスティーヌは、

満足そうにうなずく。


「悪くありませんわ」


国王は、

信じられないものを見る目で言った。


「……士気が、上がっている?」

「上がってますね」

秘書長が震え声で答える。


演習後。


兵士たちは、

いつもより誇らしげだった。


「陛下」

指揮官が敬礼する。


「民に、

 “怖がられなかった演習”は初めてです」


国王は、

深く息を吐いた。


「……世界が壊れるかと思った」

「まだ壊れてません!」


アステリアが胸を張る。


その瞬間。


「……ユリウス?」


秘書長が、

ゆっくりと倒れた。


「秘書長!!」


「だ、大丈夫です……」


床から、かすれ声。


「ただ……

 “心労”が……」


セレスティーヌは、

珍しく真剣な顔で覗き込んだ。


「まあ……」


「わたくしのせいですの?」


国王とアステリアは、

即座に目を逸らした。


「……今度、

 休暇をあげますわ」


「一週間ください」

「一か月ですわね」


「三か月お願いします……」


こうして。


軍事演習は、

史上最も“優雅で不可解”な形で終了した。


王国は今日も、

奇跡ではなく――

胃薬と偶然で、かろうじて平和を保っている。


まだまだ続く。



振り返ってみれば、

この演習は成功だったのか、失敗だったのか。


誰も明確な答えを持たない。


兵士は誇りを得て、

民は恐怖を減らし、

国王と秘書は寿命を削った。


それだけは確かだ。


お嬢様は、

自分が正しいと疑わない。

女神は、

正しくあろうとして失敗する。


だが――

その間に立つ者たちは、

気づかぬうちに新しい「国の形」を見ている。


力とは、

恐れられるものだけではない。


そして、

優雅さとは、

時に最強の武器になる。


次は、数字と布と感性がぶつかる場所。

平和なはずの予算会議で、

また胃薬が消費されるだろう。


それでも王国は、

今日もなんとか回っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ