ユニット名、正式発表
戦いの形は、時代と共に変わる。
剣が歌に変わり、
魔法がリズムに変わり、
祈りは――拍手に変わった。
だが、変わらないものがある。
それは、
「伝えたい」という衝動だ。
この章で始まるのは、
勝つための舞台ではない。
評価されるための祭りでもない。
不器用な女神たちが、
完璧ではない声で、
それでも前に立つ物語である。
詩から歌へ。
戦場からステージへ。
空気が切り替わるその瞬間を、
どうか見届けてほしい。
⸻
ユニット名、正式発表
――そして戦場は、ステージへ
王都の闘技場は、一夜にして様変わりした。
血と叫びの名残があった石床は磨かれ、
即席だったはずの観客席には、色とりどりの布が掛けられる。
なぜか照明装置が増え、
なぜか音響が整い、
なぜか屋台まで並び始めていた。
「……ねえ、これ絶対おかしくない?」
アステリアは、舞台袖で呆然としていた。
手に持っているのは、さっきまで“武器”だった詩カード。
今は――キラキラ加工されている。
《それでも朝は来る》
※アイドル仕様:ホログラム付き
「おかしくないよ!流れだよ流れ!」
ルミナが親指を立てる。
衣装もいつの間にか変わっていた。
白と金を基調にした、明らかに神界デザインのステージ衣装。
「詩で心を掴んだら、次は歌とダンスでしょ?」
「普通逆だと思う……」
ノクスはすでに諦めの境地で、
黒を基調としたシンプルな衣装の裾をいじっている。
「……私は、バックダンサーでいい」
「だめだよノクス!センター適性あるもん!」
「どこに……」
その時。
ゴゴン、と闘技場全体が震えた。
空が割れ、
神界仕様の巨大スクリーンが展開される。
《神界公式アナウンス》
場内が静まり返る。
光の中から現れたのは、
明らかに“慣れている”タイプの神官だった。
「――発表します」
声が、よく通る。
「詩カードバトル第一巡業、勝利ユニット
正式名称を、ここに宣言します」
アステリアは息を呑んだ。
(え、名前……決めてたの!?)
「ユニット名――」
一瞬の間。
「《モーニング・フォールズ》」
どこかで、誰かが吹き出した。
「朝が来るって言ってたもんね!」
「フォールズ(転ぶ)も含まれてるの、悪意ない?」
「むしろ事実……」
だが、観客席は――沸いた。
拍手。
歓声。
そして、なぜかペンライト。
「詩で泣かせた神ユニットが、
次に挑むのは――」
神官は、にっこり笑う。
「神界公認・アイドル合戦です」
「え?」
アステリアの声は、完全に置いていかれた。
「ちょ、待って!?
戦いって、そういう……!」
「安心してください」
神官は続ける。
「命は奪いません。
信仰も奪いません」
間。
「ただし――」
スクリーンに、別のユニット名が浮かび上がる。
《セラフィム☆インパクト》
《ディヴァイン・シンフォニア》
《トリニティ・クラウン》
明らかに、強そうだった。
「心は、容赦なく奪います」
沈黙。
そして――
ルミナが、拳を握った。
「……燃えてきた」
「燃えなくていい!」
「負けたら解散とかある?」
「あります」
「あるんだ……」
ノクスが小さく呟く。
「詩で始まったなら……
歌で終わらせるしか、ないか」
アステリアは、カードを胸に抱きしめた。
奇跡はない。
だが、言葉はある。
声も、リズムも、感情も。
「……ユニット名、発表された以上」
ゆっくりと、顔を上げる。
「やるしか、ないよね」
ステージの照明が灯る。
戦場は、
いつの間にか――ライブ会場になっていた。
そしてこうして。
ドジっ子女神たちは、
詩で始まり、
アイドルとして――
次の戦いへと投げ込まれるのだった。
⸻
ステージ・オン
――歌は戦術、笑顔は挑発
照明が落ちた。
王都の即席闘技場――否、
神界公認ライブステージは、闇に沈む。
観客は息を呑む。
人間も、神も、
次に何が始まるのか分かっていない。
その静寂を切り裂いたのは、
軽やかすぎる電子音だった。
♪――ピロン
「……始まった」
ノクスが呟く。
ステージ中央に、光の円陣が浮かび上がる。
その中心で、アステリアの足が一瞬もつれた。
「わっ――!」
(転ぶ!?)
だが、ギリギリで踏みとどまる。
「……セーフ」
その瞬間、観客席から小さな笑いと拍手。
「今の、演出!?」
「いや、ガチだよね?」
「でも可愛い」
アステリアは一瞬だけ目を見開き、
そして――深呼吸した。
(……詩と同じ)
(届けば、いい)
音楽が本格的に流れ出す。
詩カードが、空中に展開される。
文字が光となり、リズムに乗って舞う。
《それでも朝は来る》
《誰にも見えない場所で泣いた》
言葉が、旋律に変換されていく。
「――行くよ!」
ルミナが一歩前へ。
「声、出してー!!」
叫びと同時に、
観客席の空気が一段階明るくなる。
(……これ、スキル効果だ)
ノクスが理解した瞬間、
彼女のカードも反応した。
《誰にも見えない場所で泣いた》
効果:
・共感値上昇
・対抗ユニットの“完璧な笑顔”を鈍らせる
向かいのステージ。
《セラフィム☆インパクト》のセンターが、
一瞬だけ表情を崩した。
「……っ」
それは、ほんの一瞬。
だが、見た者は見た。
「今の!」
「揺らいだ!?」
「え、刺さった?」
歌は、続く。
完璧じゃない。
振り付けは微妙にズレる。
アステリアは一拍遅れる。
それでも――
「……あの子たち、必死だな」
誰かが呟いた。
「神なのに?」
「神だからじゃない?」
ステージ上で、
アステリアは笑っていた。
完璧な女神の笑顔じゃない。
少し緊張して、
少し不安で、
それでも前を向く笑顔。
(奇跡じゃなくていい)
(届けばいい)
最後のフレーズ。
「それでも――朝は、来る!」
光が弾ける。
一拍の沈黙。
そして――
割れるような拍手。
勝敗表示は、まだ出ない。
数値も、順位も、
この瞬間には存在しない。
ただ、確かに。
言葉と歌が、残った。
舞台袖で、
ノクスが小さく息を吐く。
「……詩より、胃に来る」
「でしょ!?」
「でも――」
視線をステージへ戻す。
「悪く、ない」
次のユニットが、
すでにスタンバイしている。
アイドル合戦は、
まだ始まったばかりだ。
ドジっ子女神たちの戦いは、
今日もまた――
少しだけ世界の空気を、変えていく。
この合戦に、
明確な“敵”はいない。
いるのは、
完璧であることを求める世界と、
それに追いつけない自分自身だ。
転ぶ。
噛む。
ズレる。
それでも、
立ち上がって歌う姿に、
人は心を預けてしまう。
神が奇跡を起こさなくなった世界で、
神は“努力する存在”になった。
それは弱体化ではない。
進化だ。
次のステージでは、
もっと派手に転ぶかもしれない。
もっと酷評されるかもしれない。
それでも――
歌は止まらない。
ドジっ子女神たちのライブは、
まだ始まったばかりだ。




