神界崩壊寸前!?ドジっ子女神たちのアイドル合戦
神は、畏れられる存在だった。
崇められ、祈られ、遠くから見上げられるものだった。
だが、
転び、失敗し、歌い、笑ったとき――
神は初めて「近づいて」しまった。
これは、
神が堕ちた物語ではない。
人が昇った物語でもない。
ただ、
同じ高さに立ってしまった物語である。
その一歩が、
神界の秩序を揺らし、
世界の常識を少しだけ書き換えた。
この章は、
その“笑ってはいけないはずの出来事”が、
誰にも止められなくなった瞬間を描いている。
神界崩壊寸前!?ドジっ子女神たちのアイドル合戦
神界崩壊寸前!?ドジっ子女神たちのアイドル合戦
⸻
神界は今、かつてないほど静かだった。
――嵐の前の、静けさである。
「……で?」
議長神が低い声で言った。
「なぜ、女神たちが“歌って踊っている”のかね」
記録板には、信じがたい光景が映し出されていた。
・舞台
・照明
・神界公式ロゴ入りマイク
そして中央に立つのは――
アステリア。
「みなさーん!こんにちはー!
弱くてもがんばってます!女神アステリアでーす!」
「止めろぉぉぉ!!」
議場が悲鳴に包まれる。
だが、止まらない。
なぜなら――
信仰値が、上がっている。
「バカな……」
「歌ってるだけだぞ……?」
「奇跡は一切使っていない……」
原因は単純だった。
人界で流行ったのだ。
「神、かわいいほうがいい説」
そして。
「……私も、出ます」
静かに名乗りを上げたのは、
元・完璧神――リュミエラ。
「ちょ、待って!?」
アステリアが振り返る。
「リュミエラさん、キャラ違くない!?」
「分析しました」
リュミエラは真顔だ。
「現在、支持を得るには」
「完璧より“親近感”が有効です」
数日後。
神界史上初のイベントが開催された。
《第一回・女神アイドル決定戦》
出場者:
・ドジっ子代表:アステリア
・元完璧代表:リュミエラ
・天然系
・クール系
・なぜか参戦した戦女神(歌が壊滅的)
「これは戦争ではない……」
議長神は呟く。
「選挙だ」
舞台上。
アステリアは盛大に転んだ。
「いったぁぁ……!」
「だ、大丈夫!?」
「今の台本にないですよ!?」
だが――
拍手喝采。
「かわいい!」
「守りたい!」
「奇跡より応援したい!」
一方、リュミエラ。
完璧な歌。
完璧なダンス。
……完璧すぎた。
「すごいけど……」
「近寄りがたいな……」
そこで。
リュミエラは、マイクを落とした。
カラン。
会場が凍る。
「……あ」
沈黙。
「……拾い方、分かりません」
ざわっ。
アステリアが駆け寄る。
「こうですよ!」
「……ありがとうございます」
二人で並んで頭を下げる。
その瞬間。
神界の信仰値グラフが、跳ね上がった。
議長神は、天を仰いだ。
「終わった……」
「神という概念が……変質した……」
結果発表。
優勝は――
該当者なし
理由:
「どっちも応援したい」
神界、騒然。
人界、歓喜。
当の本人たち。
「疲れました……」
リュミエラが座り込む。
「ですよね……」
アステリアも隣に座る。
「でも」
リュミエラが小さく笑う。
「悪く、なかった」
「はい!」
二人は夜空を見上げた。
神はもう、
崇められるだけの存在ではない。
――推される存在になった。
神界は、今日も頭を抱えている。
⸻
結果発表から一夜明けて。
神界は、静まり返っていた。
いや、正確には――
静まり返ろうとして失敗していた。
「議長!」
「信仰値の再集計が終わりました!」
「全女神平均で……上昇しています!」
「なぜだ!!」
議長神は机を叩いた。
「奇跡を使っていない!」
「管理もしていない!」
「踊って歌って転んだだけだぞ!?」
記録板が点灯する。
支持理由・上位
・親しみやすい
・応援したくなる
・失敗しても立ち上がる
・推せる
「“推せる”とは何だ」
「新概念です」
議長神は深く息を吸った。
「……つまり」
「神とは今後、“完璧”である必要がないと?」
「はい」
「むしろ、減点対象です」
「神界はどこへ行く……」
その頃、人界。
王都の掲示板に、見慣れない紙が貼られていた。
【告知】
女神交流会(ミニライブ付き)
見学自由・祈り不要
レオンは紙を見て、無言でアステリアを振り返った。
「……説明を」
「わ、私は止めました!」
「止めた結果がこれですか」
「なぜか“現地開催”が決まりました……」
そして迎えた当日。
小さな広場。
即席の舞台。
照明は職人手作り。
「え、ほんとにやるの……」
アステリアは震えていた。
「大丈夫です」
隣でリュミエラが言う。
「今回は“競争”ではありません」
「じゃあ何ですか……?」
「交流です」
戦女神が後ろで槍を鳴らした。
「私は歌わんぞ」
「歌います」
「なぜ断定する」
「流れ的に」
始まったライブは――
予想外に、穏やかだった。
歌う女神。
手拍子する民。
踊りを間違えて笑いが起きる。
奇跡は、起きない。
だが、空気はあたたかい。
アステリアは途中で転び、
「今のも振り付けです!」と叫び、
会場が笑いに包まれた。
リュミエラは最後に、こう言った。
「神は、上に立つ存在だと思っていました」
「でも――」
「並ぶほうが、景色が分かります」
拍手。
その瞬間。
神界で、警報が鳴った。
「議長!」
「人界側の信仰が……」
「“個人崇拝”に変質しています!」
「……もう止められん」
議長神は椅子に沈み込んだ。
「神はもう」
「役職ではなく――キャラクターだ」
ライブ後。
アステリアはへたり込んだ。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様です」
リュミエラが水を差し出す。
「……ねえ」
「はい」
「神界、怒ってません?」
「怒っています」
即答。
「でも」
リュミエラは少し笑った。
「同時に、期待もしています」
遠くで、レオンが呟く。
「……世界、変わりましたね」
「変えちゃいましたね……」
空を見上げると、
神界から新しい掲示が降りてくる。
【通達】
今後、女神の在り方は多様性を尊重するものとする
なお、アイドル活動は「例外的に容認」
「例外って言ってますけど……」
「続きますよ、これ」
アステリアは天を仰いだ。
「……もう、逃げられないですよね」
「センターですから」
「やだぁぁぁ!」
神界は今日も騒然。
人界はなぜか平和。
――こうして、
神と人の距離は、さらに一段近づいてしまった。
奇跡は起きなかった。
だが、拍手は起きた。
信仰は減らなかった。
形を変えただけだった。
完璧な神は、戸惑い。
弱い神は、立ち上がり。
人は、その両方を見て選んだ。
それは崇拝ではなく、
服従でもなく、
応援だった。
神界はまだ混乱している。
だが、その混乱は――
恐怖ではなく、可能性に近い。
そして誰もが気づき始めている。
この流れは、
もう一柱や二柱の問題ではない。




