神界、会議が地獄
神の世界は、
いつも整っていると思われがちだ。
秩序があり、
規則があり、
失敗など起こらない――はずだった。
だが、ひとつの世界が
「神を必要としなくなった」とき、
その前提は静かに崩れる。
この章で描かれるのは、
地上の英雄譚ではない。
神々が頭を抱え、
書類に怯え、
現実に敗北する物語である。
奇跡よりも厄介なものが、
ここにある。
神界、会議が地獄
神界は今日も平和だった。
少なくとも、
会議が始まるまでは。
「では次の議題です」
白く眩しい会議場。
円卓を囲むのは、各世界担当の神々。
議長が淡々と告げる。
「管理世界番号A-17
――“奇跡を必要としない世界”について」
ざわっ。
「まだ生きてたの?」
「え、あそこ二女神体制じゃなかった?」
「え、三柱目送ってないの?」
空気が重くなる。
「……送ろうとしました」
事務神が手を挙げる。
「が、現地から拒否されました」
「拒否!?」
「神が!?」
「どうやって!?」
映像が映し出される。
《奇跡使用申請書(事前)
責任者記名欄あり
失敗時報告義務あり》
沈黙。
「……なんだこの世界」
「神に業務報告書を書かせる文明、初めて見た」
別の神が震える声で言う。
「しかも、子どもに
『宿題減らないよね?』って言われて撤退……」
一同、顔を覆う。
「精神攻撃だ……」
「祈りより効くやつ……」
そこへ、
別室から怒号が響く。
「ちょっと誰よ!
あの世界にリュミエラ送ったの!」
「新人研修ローテーションです!」
「正気!?」
議長が咳払いする。
「結論を出そう」
全員が固唾を飲む。
「――A-17は」
「これ以上、神を送らない」
満場一致だった。
「要観察指定、維持」
「干渉禁止」
「奇跡使用、緊急時のみ」
「あと」
議長は一言付け足す。
「二度と
“やる気のある雲”を出すな」
その頃、地上。
アステリアがくしゃみをした。
「……また何か決まった?」
リュミエラが不安そうに聞く。
「たぶん」
レオンが即答する。
「俺たち抜きで、
神界が反省してる」
三人は沈黙し――
同時に頷いた。
「それでいい」
世界は今日も回っている。
神界の会議資料が一段増えただけで…。
神界は混乱した。
だがそれは、
世界が間違っていたからではない。
むしろ逆だ。
神がいなくても回る世界が存在することを、
神々が初めて理解したからだ。
奇跡は万能ではない。
祈りは命令ではない。
そして神もまた、
調整と反省を強いられる存在だった。
この世界は、
神を追い出したわけではない。
ただ、
依存しない関係を築いただけだ。
それがどれほど異常で、
どれほど健全かを、
神界はようやく学び始めた。
物語は続く。
だが次に雲がやる気を出すときは、
議事録が先に届くだろう。
――それが、
この世界の“奇跡”なのだから…。




