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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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第十三章 語られる物語、語られない奇跡

物語は、

いつか必ず「昔話」になる。


英雄の名は薄れ、

神の姿は曖昧になり、

残るのは――選択の記録だけだ。


この章で描かれるのは、

奇跡の結末ではない。


神が去ったあと、

人がどう生きたかという話。


語られたことよりも、

語られなかったことのほうが、

この国を形作っている。


それを知るための、

最後のページが開かれる。



第十三章


語られる物語、語られない奇跡


――それから、二十年後。


その国は、地図から消えなかった。


奇跡によってではない。

神の加護によってでもない。


帳簿と交渉、

失敗と修正、

そして人の手によって――

しぶとく、生き残った。


王都の中央広場。

かつて神殿だった場所は、今は図書館になっている。


「ねえ先生」


子どもが手を挙げた。


「この国って、昔ほんとに神様がいたの?」


老いた語り部は、少し考えてから答える。


「さあな」


「えー?」


「いた、と言う者もいるし

いなかった、と言う者もいる」


笑いが起こる。


「ただしな」


語り部は杖で床を叩いた。


「一つだけ、確かなことがある」


子どもたちは静まった。


「この国は、一度

神に頼らず立つことを選んだ」


書棚の奥には、古い記録が残っている。


神狩り一族の名。

裏切った重臣たちの証言。

再建初期の失敗だらけの政策案。


英雄譚ではない。

読めば読むほど、地味で、面倒で、情けない。


だが――

消されていない。


「奇跡は書いてないの?」


別の子が聞く。


語り部は笑った。


「奇跡はな、

起きた瞬間より

起こさなかった選択のほうが、後に残る」


その日の夕方。


城壁の外れ、

小さな畑の横で、白髪交じりの女が鍬を持っていた。


「……腰、痛い」


「年相応だ」


隣で、同じく年を重ねた男が苦笑する。


「神様だった人が言う台詞じゃない」


「元、です!」


アステリアは胸を張る。


奇跡はもう使えない。

羽も生えない。

神殿も持たない。


だが――

土の感触は、今も好きだった。


「ねえ、レオン」


「なんだ」


「後悔、してます?」


男は少し考える。


「忙しすぎたことは後悔してる」


「そこ!?」


「だが――」


畑の向こう、

街の灯りを見る。


「神に任せなかったことは、していない」


アステリアは、静かに頷いた。


「よかった」


風が吹く。


それはもう、

天啓でも神風でもない。


ただの、夕暮れの風だ。


それでも――

世界は回っている。


誰かが祈り、

誰かが働き、

誰かが物語を語る。


奇跡は語られなくなった。

だが――

選択は、受け継がれていく。


神と人が並んで歩いた国は、

いつしか「普通の国」になった。


それこそが、

彼らが望んだ結末だった。


物語は、ここで終わる。


だがこの世界では、

今日も誰かが言う。


「神様がいたらいいのに」と。


そして誰かが、

笑って答える。


「いなくても、大丈夫だったよ」と。


――完。

神は、歴史から消えた。


だがそれは、敗北ではない。


奇跡を語らなくても、

国は続き、

人は生き、

物語は受け継がれる。


アステリアは、

神であることを手放し、

世界の一部になった。


レオンもまた、

神話にならない王であることを選んだ。


この物語に、

完全な答えはない。


だが一つだけ、

確かな結論がある。


奇跡がなくても、

人は世界を前へ進められる。


そしてそれは、

最も人間的で、

最も強い希望だ。


ここまで読んでくれたあなたへ。


この物語が、

「神様にお願いする前に、

一歩踏み出す理由」になったなら――

それ以上の結末は、ない。


物語は終わる。

だが選択は、

今日もあなたの前にある。

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