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ドジっ子女神と借金だらけの王国へ  作者: マーたん


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第十二章 それでも世界は、回り続ける

神が去った世界は、

静かになると思われていた。


だが実際には、

騒がしく、面倒で、

そして驚くほど人間的だった。


奇跡が消えても、

交渉は続き、

帳簿は増え、

パンは焦げる。


この章で描かれるのは、

再建の「成功」ではない。


失敗を抱えたまま、

それでも前へ進むという選択だ。


神と人が並ぶ世界の、

ごく普通で、少し特別な一日が始まる。



第十二章


それでも世界は、回り続ける


王都の朝は、相変わらず慌ただしかった。


鐘は鳴らない。

神殿も完全には戻っていない。


それでも――

市場は開き、子どもは走り、商人は値切る。


「安くしろって言っても、こっちも税がな!」


「文句は王に言え!」


「言ったよ!順番待ち三日だ!」


怒鳴り声と笑い声が混じるその光景を、

城壁の上からレオンは眺めていた。


「……うるさいな」


「平和ですねえ」


隣で、アステリアがのんびり言う。

手には焼きたてのパン。

三個目である。


「神がいなくなった国とは思えない」


「私、いますけど?」


「奇跡を起こさない神は、

世間的には“いない”扱いだ」


「ひどい!」


アステリアは頬を膨らませ、

パンをもう一口かじった。


「でもまあ……」


城下を見下ろす。


「悪くないですね」


再建は順調とは言えない。

借金はまだある。

外交は常に綱渡りだ。


それでも、

国は“自分の足”で立っていた。


「神様にお願いしなくても、

人が考えて、動いて、失敗して……」


「文句を言う」


「それも含めてですね」


二人は少し笑った。


そのとき、城門のほうが騒がしくなる。


「使節団です!」


「どこの?」


「……神狩り一族の生き残りです」


一瞬、空気が張り詰めた。


レオンは息を吐く。


「通せ」


「えっ?」


「話を聞く」


後日。


使節は、深く頭を下げた。


「我々は、神を求めません」


「ただ――居場所を」


彼らは力を失い、

憎まれ、

それでも生き延びてきた者たちだった。


レオンは、アステリアを見る。


「どう思う?」


女神は少し考えた。


「……奇跡は、あげられません」


「分かっている」


「でも」


微笑む。


「やり直す場所くらいなら、

人の国でも、用意できます」


沈黙のあと、

使節は泣いた。


神に救われなかった者が、

人に救われた瞬間だった。


夜。


アステリアは城の一室で、帳簿と格闘していた。


「数字、多くない?」


「現実だ」


「神界の書類より多い……」


「神界も大概だろ」


アステリアは机に突っ伏す。


「ねえ、レオン」


「なんだ」


「私、ちゃんと役に立ってます?」


レオンは即答しなかった。


しばらく考え、言う。


「立ちすぎてる」


「え?」


「神としては弱いかもしれない」


アステリアは少し不安になる。


「でも――」


レオンは窓の外、灯りの消えない街を見る。


「この国には、今のほうが必要だ」


アステリアは、ゆっくり笑った。


「じゃあ、もう少し一緒にいます」


「勝手に帰るなよ」


「帰りません」


伸びをして言う。


「だって今、

ここが私の世界ですから」


神はもう、世界を支配しない。

人も、神にすがらない。


それでも世界は、

少しずつ、確かに回っている。


奇跡はない。

だが――


明日は、ある。


その当たり前を守るために、

今日も誰かが働き、

誰かが転び、

誰かが笑う。


それでいい。


それが、

神と人が並んで歩ぶ世界なのだから…。

この物語に、

完全な勝利はない。


借金は残り、

対立は消えず、

明日も問題は起こる。


だがそれは、

世界が生きている証だ。


アステリアは、

神としては弱くなった。


だが人としては、

確かにこの国に根を下ろした。


レオンもまた、

神に頼らない王であることを選び続けている。


奇跡がないからこそ、

考え、迷い、

対話しなければならない。


その不自由さを、

彼らは受け入れた。


神が隣に立ち、

人が前を歩く。


その距離感こそが、

この世界の答えだった。


物語はここで一区切りを迎える。

だが世界は、

今日も変わらず回り続ける。


奇跡よりも確かなもの――

生きるという営みを乗せて…。

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