十章 ――神は救われるか、人は試されるか(神奪還編)――
奇跡は、もう残っていない。
祈っても、
願っても、
空は沈黙したままだ。
それでも人は立ち上がる。
救われる側だった者たちが、
今度は救うために剣を取る。
この戦いに、英雄はいない。
勝利を約束する声もない。
あるのは、
「それでも行く」という選択だけ。
神を失った世界で、
人は初めて――
神を救う戦争を始める。
十章 ――神は救われるか、人は試されるか(神奪還編)――
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Ⅳ.奪還作戦、開始
夜明け前。
空はまだ色を持たず、
東の端だけが、わずかに白んでいる。
鐘は鳴らない。
合図の旗も、鬨の声もない。
それでも――
人は、集まった。
剣を握る兵士。
鍛冶槌を置いてきた職人。
神殿を閉ざされ、行き場を失った巫女たち。
かつて女神に救われ、
奇跡の温もりを知り、
そして今は、救う側に立つ者たち。
誰一人、鎧は揃っていない。
武具も統一されていない。
それでも、
背を向ける者はいなかった。
奇跡は、ない。
癒しも、加護も、
未来を保証する声もない。
あるのは――
命を賭ける覚悟だけ。
王子レオンは、列の先頭に立っていた。
王子の外套は外され、
簡素な鎧に、傷の多い剣。
「……覚えておいてほしい」
静かな声が、闇を切る。
「これは、命令じゃない」
誰も動かない。
「神は、俺たちに助けを求めなかった」
一瞬、空気が張り詰める。
「それでも――
俺は、行く」
視線が交わる。
誰かが、深く息を吸う。
「女神は、俺たちが救う」
その言葉に、
誰も笑わなかった。
誰も疑わなかった。
それが、
この戦いのすべてだった。
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神狩り一族の拠点は、
古い神殿跡を改造した要塞だった。
神を拒むために建てられた壁。
祈りを断つための構造。
近づくだけで、
胸の奥がざらつく。
「……来るぞ」
最初の矢が放たれた。
音もなく、
狙いは正確だった。
一人が倒れる。
血が石畳に散る。
癒しは、ない。
「前へ!」
号令は短い。
悲鳴を上げる暇はない。
神狩り一族の戦士たちは、
人ではあったが、
人ではない動きをした。
剣を受けると、
刃が鈍る。
血を浴びると、
力が抜ける。
それは、
神性を削ぐために生み出された技。
だが――
人の剣は、人を斬る。
「怯むな!」
「数で押せ!」
泥と血にまみれ、
転び、叫び、
それでも進む。
奇跡がないからこそ、
退けば、終わりだった。
レオンは、前に出た。
護衛の制止を、振り切って。
剣を構え、
真正面から、敵を見る。
神を失った王子。
だが――
逃げなかった王子。
「俺は、王子だ」
刃を振る。
「だが、今日は――
一人の人間だ!」
剣がぶつかり合う。
火花が散る。
一撃を受け、
膝が折れそうになる。
それでも、立つ。
守られる立場を、捨てて。
その背中を見て、
人々は悟った。
この男は、
もう“王子”ではない。
王になる覚悟をした者だと。
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戦場の奥。
《神檻》の結界が、
人の血で、わずかに歪む。
神を縛るための檻は、
人の命を想定していなかった。
刃が届く。
壁が壊れる。
誰かが倒れ、
誰かが叫び、
それでも――進む。
そのとき。
檻の内側で、
女神アステリアは、
初めて“外”を感じた。
神力ではない。
祈りでもない。
必死に、抗う人の意思。
(……来た)
それは奇跡じゃない。
それでも、
胸が、熱くなる。
人が、神を救いに来た。
夜明けは、まだ遠い。
だが――
確かに、
闇は揺らいでいた。
There are no miracles left.
Even if you pray,
Even if you wish,
The sky remains silent.
Even so, people stand up.
Those who were saved,
This time, I will take a sword to save him.
There is no hero in this battle.
There is no voice promising victory.
There is,
Only the choice of "I'll still go".
In a world where God has been lost,
It's the first time for people--
Start a war to save God.




