幕間1
江間弘海は、放課後の教室でここ最近描き足したスケッチを見直していた。
大野事件に出くわした産物だった。
必死な形相で訴える大野、その大野を頭ごなしに否定し、毅然とした態度で迎え撃つ岳本用務員。
俺と対峙して奥歯をギリギリと噛み締める大野。
拳を振り下ろす大野。
大野を連行していく時に見せた、松川先生のすこし物悲しい横顔。
証拠を提示され顔を真っ青にする大野。
これらの作品たちはどこに出しても恥ずかしくない出来だった。
自画自賛してふれ回りたくなる弘海であったが、その次のページをめくって肩を落とした。
そこに描かれているのは、完璧な笑顔の矢野未可子。
とても納得のいく出来ではなかった。
きっと他者に評価を募れば、この未可子の絵は高く評価されるだろう。
でも、作者である、弘海だけは納得することができなかった。
何枚書こうが何回書き直そうが、未可子の絵だけは納得のいくものが描けた試しがなかった。
なぜなのか弘海にはわからない。
────それでも弘海は未可子を描かずにはいられなかった。
弘海は唇を噛み締めて、まっさらなページを開く。
そこに4Bの鉛筆を走らせる。
きっと、明日も、明後日も、その先も弘海は未可子を描き続ける。
新たな一ページが埋まろうとしているとき、ふと弘海は思った。
未可子はいつでも同じような表情をしているなと。
いつでも未可子は薄く微笑んでいるか、猫のように目を細めている。
他の未可子も描いてみようと新たなページをめくる。
そこで弘海はふと気がつき、鉛筆を置いた。
それ以外の表情をしている未可子を弘海は知らなかった。




