沈黙の理由5
静かになった校舎裏で弘海は、目を細めて未可子を見つめる。遠くで部活動に励む喧騒が聞こえてくる。
すると未可子はとても嬉しそうに、年相応の幼さなの残る笑顔で微笑んだ。
それを見た弘海は少し嬉しくなってしまった。
未可子の本質にほんの少しだけ触れられたような気がしたから────
「……矢野さんが仕組んだんだろう?今回のこと」
「さあ、どうだろうね」
曖昧な返答をする未可子であったが、満面の笑みはそれを隠そうなどとはしていなかった。
「どこからどこまで?、……まさか、あの財布も?」
「財布のことは知らない。たまたま面白そうなタネがあったから、そこに水を撒いただけ」
「……どういう意味だよ?」
「私ね、大野くんがここでタバコを吸っていたことは知っていたの」
「……なんとなくだけどそんな気はしていたよ」
「あのね、あそこを見て」
そう言って未可子が指をさす先には、旧校舎の小さな窓が見えた。
「あそこ、女子トイレなの。私以外に使う人なんてほとんどいないんだけどね」
この先の展開はなんとなく弘海にも読めるような気がした。
「大野の喫煙をあそこの小窓から監視していたんだね」
「監視なんて、そんな大仰な言葉を使わないで。
私はただ、あそこのトイレを利用するときに、タバコの臭いがすることが許せなかっただけ」
そこまで言うと、未可子は後ろ手に手を組んで、ゆっくりとした足取りで校舎の方へ歩いて行く。
弘海は口には出さないまでも、本当の理由がそこにないことは理解していた。
でも、まだ未可子がなぜそんなことをしたのか、までは理解するには及ばない。
「さっさと行きましょう。まだ、財布の方は解決していないんだから」
もはや大野はこの場にいない。俺たちが財布の持ち主を探し出したところで、停学は免れないだろう。
だけど、未可子の号令に従って弘海はその後に続いた。
弘海が未可子の横に追いついたとき、未可子は弘海に聞こえるか聞こえないかの声量でポツリと言った。
「仮面をかぶり続けるのも、なかなかに大変なのよ」




