仮面の綻び6
弘海は古賀の車に揺られて連れ来られたのは、未可子とも来たことのある、例のカフェだった。
なぜそこに向かうのかは、古賀は詳しく話してはくれなかったが、弘海は好奇心を満たすために了承して車に乗りこんだ。
古賀は、カフェに到着すると、席を確保しようとはせずにそのままカウンターへ向かっていく。
そして、カウンターに立つ男の店員に声をかけた。
「よっ!コーヒー二つお願い」
振り返った瞬間は満面の笑顔で、弘海はきれいな顔だなとおもった。
けれど、古賀を認識した瞬間に、嘲笑うような表情に変化していく。
「なんだ、古賀か」
男は古賀の背後に立つ弘海に視線を向けて、眉根を寄せる。
「おまえ、犯罪を犯しているわけじゃないよな?」
「ん?そんなわけないじゃん。ちょっとキミちゃんに聞きたいことがあるみたいだから、連れてきたんだよ」
そう言いながら古賀は、両手でピースサインを男に送る。
それを見た男は、隠そうともせずにため息を吐き出し、続けて言った。
「君、この悪いお姉さんになんかされたりしてない?なんかされたならすぐに俺に相談してくれ。相談に乗るから」
「ちょちょちょちょ、そんなことするわけないじゃん!なんかさ、未希について聞きたいことがあるみたいなんだよ。ほら、妹の未可子ちゃんって知らない?あの可愛らしい。このコがそのお友達みたいでさ」
ミキという言葉を聞いた瞬間に、男の目がわずかに見開かれたのを弘海は見逃さなかった。
ミキについてこの男が何かしらの情報を握っていると弘海は確信する。
未可子が過剰反応を示した答えをこの男は知っているのかもしれない。そう思うだけで、自然と頬が緩んでしまう。
「……ああ。妹がいることは知ってたよ。名前までは知らなかったけど」
「ほら、あれ話してあげてよ。未希が国会議事堂で非常ボタン押した話!」
「……で、なんだっけコーヒー二つだっけ?ホットでいいか?」
「あっ、誤魔化さないでよ!」
男は明らかに話を逸らそうとした。国会議事堂での事件を話せない理由がこの男にもあるというのだろうか?
「話してはやるよ。ただ、こっちだって商売でやってんだ。注文を受けてその後でゆっくり話してやる」
「たしかにそれもそうだね。ごめん。あっ、江間くんコーヒーで大丈夫だった?」
弘海はカウンターに置かれている料金表を確認する。種類はよくわからないけど、1番安いコーヒーなら三百八十円。
財布の中に入っている金額でギリギリ足りる。
「はい。それで大丈夫です」
そう言って弘海が財布を取り出そうとすると、古賀にそれを制止される。
「コーヒーくらい先輩が奢ってあげる。大人の経済力舐めんな」
満面の笑みでそう言ってきた。
知らない人にはご馳走になってはいけないと親から躾けられていたけれど、弘海は少し考えて頷いた。
「ごちそうさまです」
「うん。悪くないよ。素直なコは私嫌いじゃない」
「……やっぱりおまえ、ロリ────」
「違う、そういうのじゃないから!で、いくらなの!?」
古賀は男の口を塞ぎその先は言わせなかった。
「七百六十円」
古賀はポシェットから財布を取り出す。どこかで見たことがある財布だった。
「あっ!?」
弘海は思わず声をあげた。なにせ、古賀が手にしているその財布は、先の喫煙事件で大野が拾った財布と同じものだったからだ。
昇降口で未可子と古賀がしていた会話を思い出し、瞬時に理解する。あの財布の持ち主が古賀であったことを。
『この前話した』と言っていたのは、謝礼を貰った時のことだったのだと。
「うん?どうした」
「いや、財布の持ち主が古賀さんだったんだなって思いまして」
「あー。そうなんだよ。本当にありがとうね。未可子ちゃんから聞いてなかったんだ」
「あのさ、七百六十円。次のお客さん待ってるから早くしてくれる?」
軽く後ろを振り返ってみると、たしかに注文を待つお客さんの姿があった。
「あーごめん」
古賀は千円をトレーに起き、お釣りを受け取ると、迷わずにカウンターの席に座った。
弘海もその横に。




