仮面の綻び4
未可子の綻びの予兆を見た弘海は、ある指針をもって、職員室の前に佇んでいた。
まるで壁と同化してしまったのではないかと思うほどに、生徒たちは弘海には目もくれず通り過ぎていく。
でも弘海はここに存在している。
────ポケットの中の感触だけがそれを証明してくれていた。
唐突に職員室の扉がガラリと開く。
出てきたのは古賀だった。
それは、弘海の待ち人でもあった。
古賀は扉を閉める直前までおちゃらけた態度を見せているが、扉がしまった瞬間に人が変わったように精悍な顔つきになる。
それを弘海は興味深いと観察していると、古賀のほうが弘海に気がついて、笑顔でこちらに近づいてくる。
どうやら、壁そのものになってしまっていたわけではないようだ。
「えっと、江間くんだったよね?こんなところでって、……その顔どうしたのよ。まさか未可子ちゃんと喧嘩でもしちゃった?」
笑顔を瞬時に崩して、眉根を寄せる古賀。
ああ。そうか。壁に激突して鼻血をだしたことを失念していたと思った弘海だったが、そんなことはどうでも良かった。
それよりも大切なものがある。
「ミキさんについて詳しく教えて欲しいんです」
「ミキについて……?まずそれよりも顔洗ってきたほうがいいよ。制服にもかなりついちゃってるし、あ、そうだ、これ」
ミキは肩から下がっているトートバックを漁り、小分け式のウエットティッシュを差し出してきた。
「ありがとうございます。でも、先にミキさんについてお聞きしたいんです」
弘海が古賀の方に一歩踏み込むと、古賀は怯んだように後ずさりした。
弘海からしてみれば、今の一分一秒が惜しかった。
身だしなみを整えるのは、その後で良いと弘海は思ったのだけれど、古賀はそうは思わなかったようだ。
「そんな姿のままの江間くんとは私は話したくないかな。顔を洗ってくるだけでいいから」
なぜ、そんなことにこだわるのかは弘海にはわからなかったが、従わざるを得なかった。
なにせ、話す話さないの主導権は古賀にあるのだから。
「わかりました。ちょっと顔を洗って着替えて来ますから、絶対にいなくならないでくださいよ」
「はっ?……そんなことしない。だから早く行ってきなさい!」
なんで怒らせてしまったのかはわからないけれど、古賀に怒鳴りつけられてしまった。
弘海はすごすごと古賀が指さす教員用トイレに向かう他なかった。




