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やさしい嘘  作者: 仙道 神明


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4/10

Ep.4「愛の嘘」

本当のことだけが、愛じゃない。

やさしい嘘の中に、人は一番深い想いを隠している。

 カフェの窓際、冬の陽射しが白く差し込んでいた。湯気の立つカップの向こうで、沙織は微笑んでいた。


 「久しぶりだね、健」


 「……二年ぶり、かな」


 健は、どこかぎこちない笑みを浮かべた。別れた恋人と再び会うには、少し早すぎる気もした。


 けれど、彼女のSNSで“結婚報告”を見た夜、なぜか心が動いた。


 「お祝い、言いたくてさ」


 そう言って、テーブルの上に小さな包みを置く。


 「たいしたものじゃないけど」


 「ありがとう」


 沙織は包みを開け、小さなペンダントを見て微笑んだ。


 「懐かしいね。昔も、似たのくれたよね」


 「覚えてた?」


 「うん。……忘れられないよ」


 それきり、二人はしばらく黙った。店内のBGMが、遠くで揺れていた。


 沈黙を破ったのは、沙織だった。


 「実はね……結婚、してないの」


 健は驚いた顔をした。


 「え?」


 「仕事がうまくいかなくて。心配されたくなくて、嘘ついたの」


 そう言って、少し恥ずかしそうに笑った。


 「そっか……」


 健はコーヒーを一口飲み、窓の外を見た。冷たい風に舞う雪が、光を散らしている。


 「実は俺も、嘘ついてた」


 沙織が顔を上げる。


 「俺、あのとき“別れよう”って言ったけど……本当は言いたくなかった」


 「……どうして言ったの?」


 「お前が夢を追いたいって言ったから。足を引っ張りたくなかった。だから、格好つけたんだ」


 沙織の目に、ゆっくりと涙が浮かんだ。


 「ずるいね……」


 「お互いさ」


 ふたりは笑った。笑いながら、泣いた。


 やがて、時計の針が午後を指した。沙織がコートを羽織り、席を立つ。


 「また、いつか会えるかな」


 「うん。そのときは本当の話をしよう」


 「……嘘でもいいよ」


 「え?」


 「だって、あの頃の嘘は、ちゃんと優しかったから」


 そう言って、沙織は微笑んだ。扉のベルが鳴り、冷たい風が吹き込む。


 健は残ったカップを見つめながら、小さくつぶやいた。


 「そうだな……やさしい嘘で、よかった」


 外に出ると、雪が本格的に降り始めていた。白い街の中で、彼は空を見上げる。


 その雪の一粒一粒が、まるで誰かの“やさしい嘘”のように、静かに世界を包んでいた。

嘘は、誰かを守るための祈りになる。

“愛の嘘”で終わるこの物語は、静かに真実へと還っていく。

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