Ep.2「友情の嘘」
好きと友情。その境界に生まれた“やさしい嘘”が、二人の少女を少しだけ大人にしていく物語。
「好きな人、できたんだ」
放課後の教室。窓から差し込む夕陽が、遥の横顔を柔らかく照らしていた。
真央は、一瞬だけ笑顔をつくるタイミングを忘れた。
彼女の言葉は軽やかだったけど、その“誰か”の名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。
それは、真央がひとりで密かに好きだった人の名前だった。
「いいじゃん。応援するよ」
言葉が、口の外に出たときにはもう、嘘になっていた。
でも、遅かった。その嘘を取り消す勇気は、どこにもなかった。
それからの日々、真央は「友達として」遥の恋を支えた。放課後、恋の相談に乗り、笑顔で背中を押した。
そのたびに胸の奥が少しずつ冷えていった。
“友情”の形を保つための嘘。
それが、自分を壊していくなんて思わなかった。
──卒業式の日。
校門の桜が満開で、花びらが舞っていた。二人は写真を撮り終えると、少し離れた場所に並んで座った。
沈黙のあと、真央がぽつりと言った。
「ねぇ遥。私ね、ずっと嘘ついてたんだ」
遥が顔を向ける。
「嘘?」
真央は笑おうとしたけど、声が震えた。
「ほんとはね、あの人のこと……私も、好きだったの」
遥はしばらく何も言わなかった。春風が、二人の間を通り抜けた。
やがて、遥が小さく呟いた。
「……知ってたよ」
真央の目が見開かれた。
「え?」
「真央が、あの人見てる時の顔。なんか違ってたもん。……でも、言えなかった。自分が先に“好き”って言っちゃったから。それで真央が何も言わなかったの、たぶん……私のせいなんだよね」
遥の笑顔が、泣き出しそうに滲んだ。
「……ごめんね。私もずっと、嘘ついてた。“気づかないふり”してた」
二人は、泣きながら笑った。その笑顔は、少し大人びていた。
“友情の嘘”は、誰かを守るために生まれ、そして、互いを許すことで終わるものなのかもしれない。
本当の気持ちを隠すことも、優しさの形のひとつ。
その嘘が、二人を結ぶ橋になりますように。




