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☆8☆
早乙女教授の書斎に、
炎華、我輩、竜破、鬼頭警部の三人と一匹が集まった。
炎華が、
「早乙女教授、
残念ながら真城の遺体が神隠山で見つかったわ。
斜面の窪みに埋められていたそうよ。
いったい誰がそんな真似をしたのかしらね?」
早乙女教授が、
「さあ、ワシにはさっぱり分からないな。何しろ、事件当日、
ワシは美墨ホテルに、
午前八時から、
真城が行方不明になるお昼ごろまで、ずっといたのでね」
炎華が、
「あらそう。それはちょっとおかしいわね」
早乙女教授がサングラスごしに炎華を見つめ、
「何がおかしいのかね?
おかしな所など、何もないはずだが?」
「そうかしら? だって、
早乙女真城を殺して神隠山に埋めたのは、他でもない、早乙女教授、あなたでしょう」
炎華の告発に早乙女教授が冷淡に、
「事件当日、ワシは美墨ホテルにいたんだよ。
真城を誘拐する事など出来ないね。
ホテルを出たあとは、神隠山を迂回して、歩いて早乙女市の自宅まで戻ったのだ。ニ時間近くかけて、
午後ニ時ごろ着いたのだ」
炎華が、
「一つ抜けている行動があるわね」
早乙女教授が、
「何だと? いったい何の事だね?」
炎華が、
「真城の行方不明事件が起きた日に、
美墨ホテルでも、
ちょっとした事件が起きたのよ。
それが何か?
分かるかしら?」
早乙女教授が目を白黒させ、
「ふ、ふん。火事でも起きたのだろう? 違うかね?」
炎華が、
「早乙女教授、ご自身に起きた事件よ」
早乙女教授が目を丸くして、
「そ、そうか。お腹でも壊したかな」
炎華が、
「別の客が連れてきた犬に噛まれたのよ」
早乙女教授が話を合わせるように、
「そうそう。確か、そんな事があったな。すっかり忘れていたよ。年は取りたくないものだな。すっかりボケてしまった」
炎華が、
「何で忘れていたのか教えてあげましょうか。
あなたは事件前日、
美墨ホテルに泊まるさい、
スタッフに貴重品を渡したあと、
スタッフが背後の金庫に貴重品をしまう時を狙い、
宿泊者名簿をめくって、
翌日のページにあらかじめ、
自分の名前を書いておいたのよ。
事件当日の朝七時に、
あなたは美墨ホテルを出た。
でも、その後、
八時に、
具合が悪いと言って、
再び美墨ホテルにチェックインした。でも、
その早乙女教授は真っ赤な偽者。
つまり、
偽者は八時に宿泊者名簿のページが切り替わる事を事前に知っていた。だから、
宿泊者名簿に名前を書くフリだけをしたのよ。
偽者の早乙女教授に起きた事件を、
本物の早乙女教授が知っているはずがないわよね」
炎華が一息つき、
「犬に噛まれた傷痕を見せてもらえるかしら?」
早乙女教授が、
「いや、傷は全部治って、傷痕などない」
炎華が、
「どこを噛まれたか覚えているかしら?」
たまりかねた早乙女教授が、
「もう君の質問には答えん!
鬼頭警部の前だから答えてやったが、無礼にもほどがある。
即刻、出ていきたまえ」
炎華が素直に、
「そうね。そろそろ退散するわ。
でもね早乙女教授、
真城は殺されて山に埋められたのよ。
忘れた。
で済むと思ったら大間違いよ」