表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1

 

 神隠山伝説殺人事件


   ☆1☆


 炎華がラウンジで倒れている。

 白いドレスの胸からは、鮮やかな血がしとどに流れ落ち、床一面を血だらけにしている。

 我輩はなす術がなく、

「ニャアウ」

 と鳴きながら、炎華のまわりをウロウロしていた。そこへ、

 場違いな感じの少年の声が響く。

「こりゃ酷いな。ライフルで一撃かよ」

 少年が窓の銃痕を見ながら言った。

「リフトの先にある山小屋から狙ったな。

 距離にして九百メートルはあるから、撃った奴はゴルゴ13並みの凄腕のスナイパーだな」

 少年が炎華に手をかざし、

 じっと見つめる。すると、

 炎華の身体に緑色に光る走査線が走り、不思議な事に、その部分がみるみる修復されていく。

 まるで、フィルムの逆回転を見るかのようである。

 しばらくすると、炎華の身体は完全に治ってしまった。

 炎華の瞳が開き、ゆっくりと立ち上がる。

 不思議そうに、

「何で、私はこんな所に倒れていたのかしら?」

 我輩に問いかける。

 少年が、

「誰かに撃たれたんだよ。弾丸が頭の近くを通ったから、衝撃波で三半器管が麻痺して、気を失ったんだ」

 少年が亀裂の入ったガラス窓を指差し、炎華に説明した。

 少年が続ける、

「君は、誰かに恨まれる覚えとかはないのかい?」

 炎華が皮肉な笑みを浮かべ、

「数えきれないほどありすぎて、特定出来ないわね」

 少年が肩をすくめ、

「ともかく、このホテルに泊まり続けるのは危険だ。どこか、別の場所に泊まったほうがいい」

 炎華が思案し、

「それなら、美墨ホテルがいいわね。神隠し山の近くにあるホテルよ」

「そうか、それじゃ俺も一緒に行こう」

 炎華が首をかしげ、

「ボディーガードでもしてくれるのかしら?」

「君の安全が確保されるまではな」

 炎華がうなずき、

「私は雪獅子炎華、探偵よ。この子はユキニャン。猫だけど、私の相棒なの、よろしくね」

 我輩は飼い猫である。

 名前は、

 ユキニャン。

 探偵であるゴスロリ少女、雪獅子炎華の相棒を務め、探偵の真似事をしている、

 猫探偵である。

 炎華は、今は白いドレス姿だが、普段は漆黒のゴスロリ姿なのである。

 炎華が、

「それで、お兄さんのお名前は何て言うのかしら?」

「俺はアルセーヌ、じゃなくて、

 有世竜破あるせい・りゅうはだ。

 虹祭にじまつり学園に通う、ごく普通の高校一年生だよ」

 ちょっと細身で中肉中背、ごく普通の少年である。

 緋色のブレザーの制服を着ている。

 竜破が、

「それじゃ、その美墨ホテルとやらへ行こうか」

 炎華がうなずき、

「そうね。

 真亜古マープルおばさまに会うのも久しぶりね。楽しみだわ。元気にしているかしら?」

 竜破が、

「ミス・マープルの事か?」

「そうよ。竜破はマープルおばさまの事を知っているのかしら?」

「実は前世で」

 炎華が不思議そうに、

「前世?」

「いや、何でもない。こっちのミス・マープルも探偵ごっこをしているのかな?」

「若いころは美少女名探偵として、

 一世を風靡していたそうよ。

 今は引退して、美墨ホテルのオーナーをしているわ。

 年齢を聞いた事はないけど、

 七十近いんじゃないかしら。

 探偵はもう無理よね」

 竜破が驚き、

「ミス・マープルがそんなバアさんに!? い、いや、こっちのマープルは、俺の知っているマープルとは違うんだよな。異世界だからな」

 炎華が不思議そうに、

「異世界?」

 竜破が慌てて、

「いや、何でもない。こっちの話だ」

 炎華が不安そうに、

「お兄さん、本当に大丈夫かしら? ちょっと心配ね、ユキニャン。中二病なのかしら?」

「ウニャッ」

 我輩は肯定した。

 竜破が、

「大丈夫だって、ちゃんと美墨ホテルまで送るから、大船に乗ったつもりでいな、美少女名☆探偵炎華ちゃん」

 疑いの眼差しで竜破を見つめる炎華が、

「仕方がないわね」

 と溜め息をつき、いったん自分の部屋に戻ると、美墨ホテルへ向かう準備を始めた。

 ゴスロリ姿に着替えた炎華を見て竜破が、

「炎華はゴスロリ姿のほうが何となくしっくりくるなあ」

 炎華が問う。

「それは何でかしら」

「いや、なんとなく。何だろう? ダークなイメージが合っているっていうか、何となくだな」

 炎華が首を振り、

「よく分からないわね」

「つまり、美少女名探偵炎華ちゃんって、感じがするんだよ」

 炎華が肩をすくめホテルを出る。

 竜破もそのあとに続いた。

 結局、竜破は炎華が死んでいた事や、不可思議な能力で生き返らせた事などを一切しゃべらなかった。

 というか、あれが本当に起きた事なのかどうか、我輩も今となっては確信が持てない。きっと、

 あれは夢か幻であったに違いない。

 いや、絶対に夢幻である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ