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定期検診の日(※表紙アリ)

「頭、気持ち悪い事無い?」


 不意に言われるこの言葉。

 俺は軽く頷いて返す。

 このやりとりをする度、嫌でも"あの日"を思い出す。


 ― 半年前


 高校からの帰り。

 夜遅くにされた"スアへの痴漢"が始まりだった。


 なぜか電車や通路のAI感知カメラには"全く違う人物"が映っており、俺が撮った動画も細工されたのか、今でもこの事件は詳細不明の扱いになっている。

 だが俺だけは知っている、この"痴漢の正体"を。


 その時に走って追いかけていた俺は、まるでソイツに遊ばれているようだった。

 いくら走っても疲れを見せない表情、人間離れした足の速さ、確実にアイツは"人じゃなかった"。


 夜遅くだったのに、なにもかもが見えているかのような正確な足取り。

 少しは焦りがあるはずだろうに、それさえ一つも無い。


 誘われるように入った暗くて狭い小路に入ると、ヤツは仁王立ちで待っていて⋯⋯。

 ヤツの足が動いたかと思った瞬間、その先からの記憶は今も⋯⋯。

 頭蓋骨も脳も粉々になった俺を、目の前の"スア"がすぐに"特殊な応急処置"をしてくれたそうだ。


 スアは解剖医兼外科医であるアキトさんの一人娘で、日頃から手伝いで死体を見てはいるが、俺のは気絶しそうなほどきつかったという。

 そんな状態にも関わらず、介抱だけでなく、"角度的に足から小型銃で数発撃たれている"という事まで読み取っている鋭さ。


 倒れた俺の脳内には数多の"Ref:XAI-F(リフザイフ)秘細胞(ひさいぼう)"が注入され、それらが疑似脳を構築し、1週間後に俺は生き返る事ができた。

 この1週間は死亡同等だったようで、他の医者にもこれは不可能だと言われていたらしい。

 でも、俺は今ここにいる。


 この"秘細胞"についてはまだ研究段階であり、名の通り秘められた能力に未知も多いようで、あらゆる細胞の上位互換として期待されてはいる。

 たまたまサンプルを預かっていたスアがいて助かった、アキトさんが渡していなかったら俺はここにいない。

 

「今日は何食べる?」

「焼肉」


 月に1回の脳の定期検診が終わり、いつもの焼肉屋へと向かう。

 一か八かの大きな賭けで生きている訳で、いつまた死ぬか分からない俺は検診を受けなくてはならない。


 この脳の大きな副作用は焼肉欲が強いとこ。

 まぁこのくらいなら、むしろ嬉しいくらいだ。


 厳密には頭痛などの副作用も懸念されるため、"抗生スマートグラス"を二つ常備している。

 1つは頭、もう1つは普通に。


 カチューシャのようなものや、ハチマチのようなものも提案されたが、こっちの方が面白いし便利でいいと拒否した。

 こんなの2つも付けてるヤツ、なかなかいないしな。

 なんだあいつ、と周りの奴らにはよく変な目で見られる。


 一時期、スアが俺のマネをしていた時があったが、すぐやめるよう説得した。

 この格好は俺のスタイルだ、スアがすると俺が俺じゃなくなってしまう。

 そんな彼女は、頭にぽつりと"ピンクのスマートグラス"をかけている。


 「いらっしゃいませ~」という店内アナウンスが響き、空いてるカウンターへと二人で座る。

 スアもよほど腹が減っていたようで、タンとロースとハラミとハツを注文している。


 俺は何にしようか、カルビ以外で。

 最後に食べたのは、"殺されたあの日"だったな。


 注文を考えている最中、同時に眺めていたL.S.に緊急速報が流れた。

 (※L.S.とは、腕時計のような見た目の次世代デバイスであり、ホログラムパネルが幾つも展開されるものです)


『速報です。本日午後3時頃、"JR大阪駅うめきた地下口の男子トイレで5人の遺体"が発見されました。詳細はまだ不明ですが、一人は須藤カツヒサさん(34)と判明しました。警察は事件の可能性を視野に入れて調査を進めています。ご注意ください』


 スアのトングが止まった。


「⋯⋯えっ⋯⋯ねぇ⋯⋯その人⋯⋯」


 驚いた表情で彼女が見る。

 その先には⋯⋯


 ― ニュースに遺体で出ている男性と全く同じ人が座っていた


 一瞬頭がバグったが、冷静になって誤報の可能性もあると呟く。

 それに、一人で楽しんでいるところを邪魔するのはよくない。

 

 どうでもいい、俺たちには関係の無い事だと、とにかく目先の焼肉を食べ続けた。

 明日から始まる夢洲での≪急催R.E.D.//SUMMIT≫に、俺とスアはシークレット招待されている、他の事を気にしている場合ではない。


 実は"Ref:XAI-F(リフザイフ)秘細胞(ひさいぼう)"の中には、あるのかどうか分からないくらい小さなAIチップが何百層も組み込まれており、そんな複雑な細胞が馴染んで生還した第一人者として登壇して欲しいと言われた。

 そして、俺ら二人は何かしら大きな賞を表彰されると通達があった。


 このサミットは初日多くの有名人とAI総理が対談し、次の日からは各国の首脳と有名人を招待し、これからについて議論が行われるというもので、会場でのみ無料で一般公開される。

 1週間続けて開催され、時間は17時~21時の間。


 その間は、夢洲とここ梅田を行き来する事になる。

 そんな大きなイベントが迫っている時に、無関係の事を気にしている暇などない、初日の登壇で話す内容を考えないといけないのだ。


 なのに、翌日朝にそれは砕かれた。

 唖然とした顔で見ている隣のスア。


『ただいま入った速報です。先日の"JR大阪駅うめきた地下口の男子トイレで5人の遺体"について、残り4人の身元が判明しました。その中に、大阪知事である"佐原知事の遺体"であるという⋯⋯』


 ⋯⋯意味不明だった


 昨日の検診日、こっそりと佐原知事が調子を見に訪問してきたのだ。

 会ったのは午後5時頃、確実にそこにいた。


 軽く話もした上、「明日は楽しんで」と俺とスアに10万の小遣いまでくれた。

 「いえ、こんないいです」と断ったが、これからの君たちに投資したいんだと。

 最近は大阪知事が佐原知事になってから評判が良いが、こういった気遣いを大阪府民にも向けてくれているところなのかもしれない。


 そんな人が⋯⋯?

 誤報だとスアに言ったばかり、二度も誤報などありえるのか⋯⋯?


「ザイ⋯⋯これも誤報⋯⋯なのかな」


 ⋯⋯なんだ、この感覚

 他人事ではない、何かが俺たちに迫っているような気がした。



挿絵(By みてみん)



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